Q4-02:どの要素を意識してミノーを扱うとよく釣れる?

小林:「ケース・バイ・ケース」が答えになりますが、基準となる考え方はあります。小渓流や渓流では「好奇心・反射」と「威嚇行動」を意識して、ミノーをしっかり操作したほうが魚の反応を得やすく、中流では「食性」を意識して、魚が潜んでいそうなスポットにルアーをきっちり通すことが釣果に繋がりやすいです。

 この考え方には、エリアの特徴と、そこに棲む魚の性格が関係してきます。小渓流や渓流には渓魚のエサとなる小魚がほとんどおらず、主食は虫です。その虫も常に豊富なわけではありませんので、渓魚は食えそうなモノに対してアグレッシブに反応する傾向があります。さらに、虫が流下してくるコースは流れによってある程度決まっていますから、渓魚たちはそのコース上にあるエサ場に陣取っています。このエサ場に対して、小渓流や渓流の魚は、非常に強い縄張り意識を持っています。

 これらのことから、小渓流や渓流の魚は、視界に入ってきた"何か"を「食えそう」や「縄張りを侵す厄介者」と判断しがちで、その"食えそうな何か"や"厄介者"を「とりあえず追いかける」習性があります。しかも小渓流・渓流の魚は、中流の魚に比べて、ミノーを追う射程が広い。一見して魚がいないように思えても、ミノーを引くとどこからともなくもの凄い勢いでイワナやヤマメが飛び出してくる。こうしたバイトシーンをたびたび目撃できるのも、エリアと魚の特徴が関係しているのです。

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 一方で中流はどうか。小渓流・渓流との比較で言うと、中流は、虫に加えて小魚もいる、渓魚にとってエサが豊富なエリアです。同族のライバルたちと争奪戦をくり広げなくてもエサにありつける。エサが流れていってしまっても、待っていれば次がくる。こうした中流に棲む渓魚は、縄張りの境界線がぼやけ、威嚇行動をとることも減り、なかば群れで生活しているような状態になってきます。

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 詳しくは後ほど、「有効なカラー」の項で触れますが、ヤマメの縄張り意識の強さはパーマークの濃さとなって表れるという説もあります。模様が最も鮮明な小渓流から渓流、中流と下るにつれてパーマークが薄くなっていく傾向があります。そして最終的に、降海型のヤマメは、周囲に溶け込むように銀化して「スモルト」と呼ばれる状態になる。パーマークが完全に消失したこの姿は"群れ仕様"というわけです。ルアーに反応させる要素としての"威嚇"は、小渓流や渓流では非常に重要でしたが、銀毛したヤマメ(≒サクラマス)には通用しないこともあります。

 Q3Q4をまとめると、小渓流では、小型のミノーをしっかり操作して"好奇心や反射"と"威嚇"で反応させるのが基本。中流では、ミノーをややサイズアップして"食性"に訴えて釣るのが基本と考えています。

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解説:小林将大(こばやし・まさひろ)

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1986年生まれ、東京都在住。幼少期に魚類図鑑を見てイワナやヤマメの美しさにひとめ惚れ。大学では、水産学部でサケ・マス類の生態について学びながら、岩手県を中心に東北の渓でルアーフィッシングに没頭していた。ピンスポットキャストを得意とし、生態学に基づく釣りを展開する。

Q4-1:ヤマメやイワナは普段からミノー(小魚)を食べている?

小林:いいえ、食べていない個体も多いと考えられます。大学の研究室で1,000尾単位の渓魚を扱ったのですが、ヤマメやイワナは小魚をほとんど食べていません。エリアによっても食性は違ってきますが、おおむね25cm未満の渓魚の主食は虫です。25cm以上の渓魚でも、エサとなる小さい魚が少ない小渓流では、やはり虫を食べています。

「それなのに、なぜ小魚を模したミノーでヤマメやイワナが釣れるのか」ということになりますよね?

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 それについては、生態学の見地とアングラーとしての経験から、捕食行動以外の要素が大きく関わっている可能性があると考察できます。前提として、主食が小魚の渓魚しかミノーで釣れないわけではなく、むしろ虫を主食にしている渓魚もミノーに好反応を示します。

 私は、渓魚がミノーに反応する要素はおもに3つあると考えています。1つは食性、2つめは好奇心や反射行動、3つめは縄張りを守るための威嚇行動です。

 まず、食性についてはそのまま、「ミノーをエサと認識して食ってくる」ケースです。次の好奇心や反射行動は、食性や威嚇行動とも関係してくるのですが、「注意や興味を惹かれるモノを、思わず追ってしまう」ケース。最後の威嚇行動は、「自分の縄張りに入って来たモノを、追っ払うためにアタックする」ケースです。つまり、小魚をエサにしていない渓魚もミノーに食いついてくる要素には、捕食以外の好奇心や反射、威嚇が大きく関わっていると考えています。

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解説:小林将大(こばやし・まさひろ)

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1986年生まれ、東京都在住。幼少期に魚類図鑑を見てイワナやヤマメの美しさにひとめ惚れ。大学では、水産学部でサケ・マス類の生態について学びながら、岩手県を中心に東北の渓でルアーフィッシングに没頭していた。ピンスポットキャストを得意とし、生態学に基づく釣りを展開する。

Q3:スタンダードモデル3種(44S50S61S)はどう使い分ける?

小林:「エリアの規模」で使い分けます。私がミノーイングを楽しんでいる渓流の規模は、大まかに3つに分けることができて、それぞれのエリアに「ミノーのサイズ」と「釣れる魚の平均サイズ」が紐づいています。もちろん例外はありますが、基本は以下のとおりです。

小渓流:44S

 沢や源流の一歩手前、または支流に多いロケーション。川幅は狭く、水面に木々がオーバーハングして(覆い被さって)いる箱庭的な小場所。プレゼンテーションはピッチングを多用する。大物が潜んでいることもあるが、多いのは1822cmの魚。

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渓流:50S

 フルキャストでは対岸をオーバーランしてしまうが、ピッチングではもの足りない川幅のエリア。サイドキャストで広く探ることもあれば、スポットをねらってピッチングすることもある。平均対象サイズは2530cm

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中流:61S

 川幅は、上記「渓流」の倍ほど。このあたりまで下ってくると空は大きく開けていて、鮎釣り師の姿が見られるようになる。サイドキャストが主でピッチングすることは稀。平均対象サイズは30cm前後、40cm超えもねらえる。

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 以上のように私はSilverCleekミノーのサイズを使い分けています。けれど、たとえばいちばん大きい「61S」を中流で使用する理由は、「中流で釣れる魚が大きいから」というだけではありません。中流は川幅が広く、水量が豊富で流れも速く太いので、広範囲を効率よく探るために、ミノーにある程度の重量と大きさが求められるのです。重いほうが飛距離を出しやすく、流れの中でコントロールもしやすい。また、大きいミノーのほうが魚から見つけてもらいやすい、というのも中流で「61S」をメインにする理由の一つです。

 逆に、狭い小渓流では、魚が着いていそうなスポットを一つ一つ丁寧に探ることができます。ここでは、効率よりも、魚に無用なプレッシャーをかけないことが優先されます。質量が小さいミノーのほうが、着水音を抑えやすく、水中での存在感も薄いため、ねらっているスポットの魚にだけアピールすることができる。逆にこのような小場所で大きなミノーを使ってしまうと、1投で広範囲にアピールしてしまうため、ねらっていないスポットの魚にまで遠目にルアーを見られたり、感づかれたりして、意図せず反応させてしまいます。極端な例えになりますが、バスフィッシングで用いられるビッグベイトを小渓流でキャストしたら、たった1投で、そのエリアにいるすべての魚に強烈なプレッシャーを掛けることができるでしょう。

 詳しくはまたの機会にしますが、渓流ミノーイングでは、魚の"食性"に訴えるだけでなく"縄張り意識"や"反射行動"も利用します。こうした釣りにおいては1投目の重要性が非常に高い。「1投目」を具体的に言えば、「魚に最初にルアーを認識させるとき」です。このとき、魚に中途半端にルアーを追わせてしまうと、次のキャストで再び反応させて釣るのは至難の業です。

 川幅が広いエリアで、魚のほうからルアーを見つけて食ってきてほしいのか。それとも小場所で、限られたスポットを一つ一つ丁寧に探っていきたいのか。この観点でルアーサイズを選んでみてください。

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解説:小林将大(こばやし・まさひろ)

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1986年生まれ、東京都在住。幼少期に魚類図鑑を見てイワナやヤマメの美しさにひとめ惚れ。大学では、水産学部でサケ・マス類の生態について学びながら、岩手県を中心に東北の渓でルアーフィッシングに没頭していた。ピンスポットキャストを得意とし、生態学に基づく釣りを展開する。

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