2015年12月アーカイブ

文・写真/大野 等(おおのひとし)1969年富山市生まれ。DAIWAフィールドテスター。
全日本サーフキャスティング連盟・北陸協会岩瀬釣友会所属。

 


今年発売となった「トーナメントマスタライズキスSMT」は、前作から5年の年月を経てモデルチェンジとなりました 

 

商品名にも付いた「SMT」という文字が示すとおり、一番の特徴は、投げ竿初となったスーパーメタルトップ(以下、SMT)を採用したことにあります。
でも、開発に携わらせて頂いている立場からすると、「やっとSMTを搭載した穂先が実戦投入されたか!」という気持ちがあります。

まず、原稿を書くに当たって探し出してきたのが、この写真。


撮影日を確認してみたら、2007年8月10日能登での撮影でした。

当時のロッド企画担当者が手にしているのは、2009年発売となったトーナメントマスタライズキスのプロトモデル。
ここで打ち明けてしまいますが、2007年当時のトーナメントマスタライズキス開発時にも「感度」というキーワードを開発テーマとして掲げていた中、SMTを搭載したロッドも選択肢の一つとしてテストを繰り返し行っていました。(この写真の竿がそのプロトになります)


当時のSMTは、「投げ竿の穂先に採用するには柔らかすぎる」という判断からソリッドタイプの金属素材にカーボンを巻き付けて強度を上げた穂先を、船竿の穂先のように継いだような継穂スタイルで作っていました。

他魚種で実績のある「SMT」ですから、投げ竿に採用してもテストを繰り返して突き詰めていけば「感度」というキーワードに関してはすばらしい物になったのかもしれません。ですが鮎竿やカワハギ竿、エギングロッドのような繊細な穂先では無く、投げ竿というシッカリとした竿の穂先に「SMT」という金属が先端にあるということで、どうしても持ち重りが改善できずにいました。
この課題はクリアすべき内容であり、再検討が必要であるという結論に至り、2009年発売のトーナメントマスタライズキスに「SMT」搭載という選択肢は見送りとなりました。
 

SMTに関して、そこで開発が終わった。。。わけでは無く、トーナメントマスタライズキスが発売された後も、幾度もSMT搭載穂先のテストを行っていました。

 

2013年7月能登半島先端に近い、珠洲市の海岸。


 

並べられた3本のロッド。
1本はトーナメントマスタライズキス、そして2本のプロトロッド。
「今日は実釣で使ってみて、何か違いが感じられるか試してみて下さい」と、企画担当者から告げられました。

実際に使用してみると「どれも同じロッドに感じるのだけれど、1本だけ、何となく穂先に感じる余韻が違う?」というのが第一印象でした。同行のロッド設計者と企画担当者から、「実は、プロトの2本はトーナメントマスタライズキスと基本設計は同じで、使用しているカーボン素材の変更したもの。大野さんの感じられた「余韻が違う」という1本には、穂先にSMTを巻き込んであります」とのネタばらし。

「以前、SMTは穂先の持ち重りの問題で見送りになったはずでは?」と質問してみると、

「今まではソリッドタイプのSMTしかなかったのですが、新たに中空のSMTが出来ました。まずは投げ竿と鮎竿に先行して採用したいと考えています。以前は継ぎ穂スタイルでしたが今回は穂先にSMTを巻き込んだ状態で搭載しようと考えています。この状態で、SMTの有無で何か違いが感じられるか?というのを、試しに来ました!」と告げられました。

結果的に、違いが感じられると確認が出来たため、中空のSMTという新素材を搭載した新しいトーナメントマスタライズの開発がスタートとすることになりました。 



トーナメントマスタライズキスSMTを穂先側先端から覗き込むと中空の金属素材が見える。

トーナメントマスタライズキスを開発していた頃は、トップガンなどを使用してキスのアタリがより明確に出ることを追求していました。ところが現在はフロート系のシンカー使う人が多くなってきています。
フロート系シンカーを使うとキスのアタリが明確に出るようになりますが、錘の引き感が軽くなっている分、針先に掛かるテンションも低下するためキスのアタリに対するフッキング力は低下します。フッキング率を上げる手立てとして、絶えず穂先でテンションキープを行うことが必要になってきます。
となると、硬い穂先よりある程度海底の砂紋に対して穂先が追従してくれるようなしなやかさがある方がフロート系シンカーを使う上では都合が良くなります。単純に穂先を柔らかくするだけでは、アタリの出方は鈍くなるのでそれは採用できない。それを補うのにSMTが最大限効果を発揮するんです。
    
 SMT=超弾性チタン合金は、非常に高い復元力を持っており、SMTを使った穂先はカーボンだけで作った穂先では為しえない、独特のしなやかさを備えます。このしなやかさがフロート系シンカーを使う上では非常に相性がいいんです。



 
 

SMTは、素材特性として振動の持続性があります。その優れた特性よって、しなやかな穂先でもアタリを明確に手元まで伝えてくれます。トーナメントマスタライズキスSMTは、感度だけでは無くて元竿を長くすることで、初速を上げて飛距離を稼ぐ新たな遠投理論を採用し、飛距離と感度というトータルバランスに優れた、新たな時代のトーナメントスペックのロッドとして生まれ変わりました。
 


このように、投げ竿にSMTが搭載されるまでには、長い年月の開発によって実用化にたどり着いた、というヒストリーがありました。
一切の妥協のないダイワのモノ作りに、今後も期待していただきたい。 
 

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