桜の花が散ると、マダイの乗っ込みシーズン到来。クロダイやイシダイ、メジナも若干の時期的な差はあれど、この時期から梅雨前が産卵期。ちょうど春の潮が差して海は濁る。産んだ卵が濁りにまぎれて他のサカナのエサになりにくいのだろうか。磯のサカナにとっては、何らかの理由で繁殖に都合のいい時期なのだろう。
さて、マダイ釣り船もこの時期になると、ある一箇所の海域に集結する。他の魚種の釣り船に乗って海を見渡すと、広い海なのにほんの一箇所だけ船が過密に集結した不思議なエリアが見られる。つまり、乗っ込み期のマダイは、特定のエリアに集まるということになる。
ボクが潜ってマダイを観察すると、特に大物が多く見られるのが、海底から急に小山のように根が立ち上がるような地形の場所。ちょうどロッククライミングするような、ほぼ垂直に近いような立ち上がりをしたような地形で大物がよくたむろしている。
潮が流れていると、その根の潮表側に出て、根の中腹辺りで潮に逆らった向きで中層にホバーリング(本来はヘリコプターの操縦技術のことで、上昇も下降もせずに、空間のある一点で留まること)する。恐らく、潮に乗って流されてくるエサを待つのと同時に、ときには根に群がる小魚を捕らえたりもしているようである。
だが、潮の流れが止まると、マダイの活性も萎えて、根の窪んだ辺りで休んでいることが多い。ちょうど月面に軟着陸した宇宙船のように、根の窪みギリギリのところで腹をこするかこすらないかという微妙なラインで休む。
このときは、余程のことがない限り捕食行動には出ない。余程の事というのは、たまたま休んでいた自分の目の前にエサが落ちてくることを意味し、潮の流れのない時間帯であることを考えれば、このことは確率的にはほとんどありえない次元である。
さて、乗っ込み期ともなると、この海底から立ち上がる根にさらにどこからともなく大型のマダイが寄ってくる。小さくても40cm。ほとんどがそれ以上のサイズ。大きいのは60cm、70cmも混じる。だから乗っ込み期のマダイは型が揃うし数も出るということになるのだ。
恐らくお腹の大きいのがメスだと思われるのだが、お腹の大きいのがこの群れの中でも大型であるというケースが多い。集まったマダイは、夕刻から夜にかけてさらに浅い水深に移動し、産卵行動に入るという話だ。根の立ち上がる地形の場所は、潮通しもよく、恐らく産卵した卵が潮に乗って各地に運ばれやすいということを彼らも経験的に知っているのだろう。
さて、このような場所の場合は、仕掛けを深く入れてしまうと根がかりしやすくなるし、その日によって根の中腹のどのあたりが泳層になるかは変化する。そういった意味では、船頭さんの指示ダナは絶対であり、そのタナを集中して狙うことが必勝の方程式となるはずである。
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海底が砂地になると、どうしてもチャリコから1kgサイズの幼魚、若魚クラスが中心となる。このクラスは、好奇心も旺盛な上、貪欲な面もあるので、比較的釣れやすい。だが、釣り船の船頭は、砂地であっても、この乗っ込み期に大物が潜むマル秘ポイントを経験的に知っているようである。 2年前に東京湾のマダイ船でこの時期に釣りをしたとき、午前中は前述のような岩礁域を中心とした流しだったのだが、船全体でも1kgクラスが1枚だけ釣れていただけ。 他船も釣れていないという状況で、乗っ込み期の釣果としては絶不調な日だった。そんな状況に業をにやした船頭さん。昼から大幅に場所を変えてみると言って走り始めた。 30分ほど走りながら、次の場所はあたればデカイが、あたらなければボウズ。そんな一か八かな攻めをしてみますとアナウンス。 釣り場に着いた。 ボクは、どう考えてもこの辺りは起伏の激しい岩礁地帯ではないと察知した。どんな海底なのかボク個人として探りたかったので、仕掛けを海底までおろしてみた。水深35m。着底したテンビンをサオで持ち上げると、ねばっこくひっぱるような感触。ここの海底は岩盤ではなく、砂泥のような海底とボクはにらんだ。 こんな場所では、マダイは海底から1mぐらいのところまでの層を徘徊することをボクは水中観察で何度も目撃している。もちろんコマセによって海底のラインよりもタナが浅くなる傾向はある。 しかし、船頭さんが「ここは来たら大物」と言っていたのだから、あまりタナは浅くへはシフトしないだろうというのがボクの考えだった。やはり、小型になればなるほどコマセによって浮きやすいが、大物になればなるほど警戒心も強く、自分のテリトリーをしっかりと持っているもの。 船頭さんには申し訳ないが、海面からの指示ダナのアナウンスを無視し、ボクは海底からタナをとり、付けエサが海底ギリギリを漂うか、すこし引きずるぐらいに設定し、小さなアタリをとるためにサオは手持ちにした。コマセもふらず、ぽろりぽろりとビシからコマセが出るだけにしてアタリを待った。 この作戦の結論は予想外に早く来た。コツンと明確なアタリがあり、少し送り込んでからききアワセ。来たのが3.4kgのマダイ。また同じ方法で、さらに良型のもう1枚4.2kgを釣って、この日のサオ頭となったことがある。 これはたまたまボクの水中観察の作戦が的中して成績につながった特殊なケースとも言えるが、マダイ独特の生態を逆手にとった例でもあるはずだ。 |