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2.乗っこみに考える。サカナの産卵期

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関東では、マダイの乗っ込み最盛期である。この時期は産卵のために浅瀬にマダイが集結。初心者でも大物をゲットできるチャンス。また、数も釣れるとあって、この時期はマダイ釣り船は大盛況。

三浦半島の剣崎沖では、いままさにマダイ釣りの最盛期である。沖にはマダイを狙う釣り船がひしめきあい、まさに釣り船銀座状態。ちょうどこの時期マダイの産卵期直前の時期にあたり、マダイの活性も高く、ふだんはなかなか釣れないマダイも、よく釣れるからである。

たしかに釣れてくるマダイのお腹は大きく、さばくと大きく膨らんだ卵巣や精巣がぼろんと出てくる。明らかに産卵直前なのである。

ふと考えてみると、ちょうどこの時期は多少の差はあるにせよ、かなり多くのサカナたちが産卵期を迎える。例えばクロダイは、もう少し前の時期になるが、やはり5月中旬から6月前半。イシダイもちょうどこの時期である。また、話は大きく飛んでしまうが、GTの名で親しまれるロウニンアジも、与那国島の40〜50mの海底でこの時期何千尾の群れを作る。どうも産卵行動と考えられるのである。

このような目で見てみると、ニモの名で圧倒的な人気を得たカクレクマノミも、昨年のこの時期に西表島で産卵しているのをボクは目撃している。サカナ以外にも、サンゴの産卵もこの時期だし、ナマコやヒトデの仲間もこの時期が産卵期。アオリイカやマルイカもこの時期が産卵期。なぜこの時期に産卵期が集中するのだろうか?

1)おそらく海に棲む彼らたちにとって、なにかがこの時期有利なのだ

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マダイの卵。直径1mmほどの大きさで、産み出されるとばらばらになり、海面に浮いて流れ、そこで孵化する。いわゆる分離浮遊卵といわれる。2〜3日で孵化し、仔魚は1年ほどで15cmぐらいに成長する。

はたしてこの時期、海の生き物たちにとって有利になることは何なのか? 前出の生き物たちを考えてみると、まず出てきたサカナはカクレクマノミ以外は浮遊卵。サンゴも浮遊卵だし、ナマコやヒトデの卵も浮遊卵。サカナもアイナメのように海底の岩の表面に産みつけてオスが守ったり、ウミタナゴのように卵胎生という胎内である程度育ててから生み出すパターンとかがある。(ちなみにカクレクマノミも自分の棲むイソギンチャクとサンゴの間に卵を産みつけ、オスなのかメスなのかはわからないが、卵を守っている)だがほとんどのサカナのパターンである浮遊卵は、産み出された後は、まったく親の保護や育児もないまま、プランクトンとして浮遊し、その途中で孵化する。産みっぱなしな分、大量の卵を産んで、そのいくつかが大きくなればいいという、まさにどんぶり勘定な世界。そのほとんどの数が他のサカナたちに喰われてしまう。この効率の悪さを考えると、ウミタナゴ方式はいかに数少ない卵でも子孫繁栄できているか想像できよう。ちなみにマダイの産卵数は、1kg前後のメスで30万〜40万粒、4kgクラスとなると100万粒、6kgクラスともなると700万粒と考えられている。1尾でこの数なのだから、1万尾もあるエリアにいたとしたら、実際にどれだけの卵が産卵されるのか想像もつかない。

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サンゴも夜に産卵。ボクが観察していた限りでは、満潮から引き潮に変わるタイミングで行なわれた。潮に乗せて卵を広く拡散させるためだ。海の生き物たちは、サカナも含め、したたかに自分たちの勢力範囲拡大をもくろんでいる。

それともうひとつ忘れてならないのは、産卵のタイミング。マダイ、クロダイ、イシダイなどは、大潮の夜中に産卵行動が行なわれていると考えられている。このときふと思い出したのが、3年前に6月の上旬に小笠原・父島で夜の海中でサンゴの産卵を目撃した。ちょうど台風の影響があったせいもあるのかもしれないが、このときは大潮が終わって2日目のいわゆる中潮の日に産卵は行なわれた。たしか夜の8時ころが満潮だったと記憶している。このとき産卵を期待して7時過ぎから海に潜っていたのだが、産卵は行なわれておらず、8時ころには諦めて上がろうと思っていたときだった。8時を5分か10分過ぎたころ、突然産卵が始まった。

まずなぜ夜に産卵が行なわれるか? それは外敵が少なく、産んだ卵が喰われてしまうのを防ぐためである。特に産卵時は防ぎようにも防げない。しかも卵であれば、生き物たちにとっては最高のタンパク源。もし昼間行われたら、まるでコマセに群がるエサ盗りのようにして、一瞬のうちに卵は喰いつくされてしまうだろう。(沖縄などでは、サンゴの産卵後は海面に浮遊する卵の帯ができる。しかもそれを喰いにプランクトンフィーダーのジンベイザメやマンタといった超大型魚がそれをごっそりと喰いにやってくる)また、後から考えてみると、サンゴの産卵も引き潮に変わるタイミングで産卵が始まっている。もしやみくもに夜だからといって適当な時間にサンゴも産卵していたとすれば、満ち潮で卵は岸に打ちつけられ、卵が無駄になってしまうケースが多々考えられる。

逆に引き潮のタイミングで産めば、卵は潮に乗って沖合いへ出る。産卵そのものは子孫を残し、自分たちの生活エリアを広げ、生き残れる可能性を高めているとすれば、それは実に自然界を巧みに利用した、彼らなりの本能的な行動と言えるだろう。もちろんどれだけ巧みな行動といえども、彼らに風向きまでは知る由もなく、せっかくの卵が引き潮の流れとは反対に風で岸に打ちつけられてしまうこともあるのだろうが…。このように考えてみると、あくまでも予想なのだが、マダイやクロダイ、イシダイの産卵も、大潮周辺の夜中、しかも引き潮の始まるタイミングで行なわれているのではないかと考えられるのである。産卵した卵は、海面を漂う。ちょうどこの時期は水温も安定している。孵化した仔魚にも好都合。またこの時期は潮の干満差も大きい。先日訪れた屋久島では、干潮時の潮位がふだんの潮位よりも1mほど下がっていた。つまりそれだけ潮の高低差があるということは、それだけ潮の流も大きいことになる。よりいっそう遠くに卵が運ばれ、生息エリアを拡大していくのに役立っているのではないだろうか?

生活エリアの拡大をもくろんでいるのは人間だけではなく、サカナたちも種ごとにじっと睨んでいるのである。

※釣魚考撮より移設