この時期になると、カワハギ釣りの話題が増える。
カワハギは、決して見てくれのいいサカナではない。どちらかというとサカナっぽくない、不細工な容姿である。かといって、カワハギ釣りそのものが、ヒキがめちゃくちゃ強くて豪快な釣りでもない。だが、一度でもカワハギ釣りに興じてみると、なんともサカナに馬鹿にされた気がして、その屈辱感と、それに打ち勝って釣り上げたときの「してやったり感」がなんとも言えないものであり、カワハギファンはまだまだ増加傾向にある。
また、この時期はカワハギの肝が発育(大きくなる・・・)。もともと美味しいお刺身に、この肝と醤油とをあえた肝醤油でいただくお刺身の絶品の味は釣り人しか味わえないもの。ボクの身の回りでもまったく釣りをしたことのない人たちが、肝醤油でいただくカワハギのお刺身を食べてみたいがために、釣りを始めるという現象が多く見られているのだ。
カワハギ釣りをする前に、少しはカワハギのことを知っておこうではないか。 まずはカワハギの性別についてである。サカナの性別はわかりにくいものが多い。食べるときに腹を開けて「白子か卵巣か」でようやく性別が判明するものがほとんど。また、なぜか成長の途中で性転換するものも少なくなく、例えばクロダイなどは、幼魚から若魚時代はオスであり、成魚になるとメスに性転換するものが多い。さらに、アニメ映画で一躍有名になったクマノミの仲間もほとんどがオスであり、テリトリー内の有力者1尾がメスに性転換する。 このようにサカナの性別は、あやふやなものが多い中で、このカワハギの性別は実にわかりやすい。角と呼ばれる第一背ビレは、オスもメスもまさに角のような形状をしている。だが、そこからもう少し尾ビレ側に軟条と呼ばれる軟らかいタイプの第二背ビレがあるのだが、その前方の1本がヒョロヒョロと長くなるのがオス。伸びていないのがメスである。 これは二次性徴といって、全長10cm(いわゆるワッペンサイズ)を超えた辺りからこの特徴が現れる。産卵期になると、オスはメスの前でこのアンテナをヒラヒラさせながらくるくる回り、求愛の舞を舞う。おそらくその「ひらひら度」がメスのハートを射止めるのだろう。関東周辺では6月ころが産卵期で、砂に穴を掘ってそこにメスが卵を産み、直後にオスが放精する。 |
カワハギはほとんど単独行動であり、群れを作らない。ただ面白いことに餌場は決まっているようで、そういったところにはどことなく潜んでいる。かといって、どこかに隠れているのではなく、なんとはなしにいて、何か興味を持つと集まってくるという不思議な行動の持ち主。しかも好奇心が強い。だから、この釣りの場合、集寄(集器ともいう)のキラキラがカワハギを呼ぶ。 どういったところがカワハギの餌場かというと、基本的には砂地。広い砂地があれば、海底の砂に水を吹きかけ、砂の中に隠れているエサを探しながら回遊する。どこかにエサが多く隠れていたところを見つけると、徹底的にその場に執着して捕食する。 また岩礁域にもいる。岩礁域にいるカワハギは、岩に付く付着物や付着生物を捕食。あまりひとところに執着せず、点々としながら泳ぎ回り、おそらく砂地の場所まで移動したりもしているのだろう。 もうひとつ面白いことは、カワハギは学習能力が高い。カワハギのポイントに毎日多くの船が来て、毎日のようにエサ付の仕掛けが降りてくる。そんな場所は、間違いなく覚えていて、船のエンジンの音がしたら集まってくるほどである。そしてここが憎らしいことなのだが、釣りバリをなんとなく認識してしまうことである。決してその釣りバリが自分たちを釣り上げる道具であるということまでは理解していないのだろうが、なんか怪しいものであることまでは認識できるようである。その怪しいものには美味しいものが付いているのだが、それをうまく喰いちぎることも覚える。 だから、釣り客が多く行く場所になればなるほど学習したカワハギがいることになり、釣り方も難しくなるのである。もしもカワハギを確実に釣りたければ、人が多く行かないような場所に行って釣ることが最も近道かもしれない。 |
この憎たらしいカワハギであるが、さすがに夜は寝る。どういうところが寝床かというと、砂地に点々としている岩周辺。特に、そこに短い海藻が付着しているところを好むようだ。特に少しウネリのあるような日は、その海藻をくわえて寝る。図鑑などにはカワハギは海藻をくわえて寝ることはないなどと書かれたものもあるが、実際にボクが夜の海中で観察した限りでは、かなり海藻をくわえて寝ることが多かった。 寝るといっても、人間のように横たわるわけではない。(サカナによっては、例えばアイゴなどは横たわって寝る)普段泳ぐように背を上にして、やや斜めに傾いた状態で浮遊した感じの姿勢で寝る。ただあまり眠りは深くなく、ボクが近づいていくと、それなりに気配を感じて起きるのか、ふわっとゆっくりその場を去るように逃げる。 よく観察すると体表にごく小さな弁のような突起がいくつも出ていて、それで外敵の接近を探知しているようである。さすがに昼間のようなさっとしたすばやい行動はない。 |