カワハギは、関東では6〜7月が産卵期。ちょうどその産卵期を考えて三浦半島・剣崎沖の釣り場は、その時期に禁漁期間を設けている。今年も8月1日に解禁となり、また台風の影響の少ない夏だったせいか、解禁日以降かなりいい釣果が報告されている。
この解禁日から1ケ月ぐらいは、水深10〜15mとカワハギ釣りとしては超浅いポイントを攻める。アタリも穂先で確実に取れるし、カンカンカーンという強いヒキが浅場でさらに増強され、それが魅力でカワハギフリークの人たちはこの時期を楽しみにしている。
秋が深まるにつれ、カワハギ釣りの釣り場は徐々に深くなり、2〜3月ともなると水深50m以深となる。
カワハギのスゴイところは、本来の彼らの生態が、釣り方や釣具の進化とともに推移していくことだろう。同じことが言えるのがメジナ。このサカナも釣り方によって生態が変わったサカナだ。 20〜30年前のメジナ釣りといえば、サラシを狙えばよかった。彼らはサラシによって運ばれてくるエサを、時にはサラシのど真ん中で、時にはサラシの縁で待って喰っていた。波によってカニやフナムシが叩き落とされ、サラシによって運ばれてきた。それをご馳走だと喰っていた。またあるときは海藻がちぎれ、それがサラシで運ばれてきて、ご馳走だと喰っていた。釣り人はそれを経験的に知り、コマセを撒いてサラシに乗せ、メジナを次々と喰わせた。 ちょうどオキアミが釣りエサとして登場したのとあいまって、超大型のメジナが釣れ続けて磯の上物釣りブームが到来した。毎日毎日、釣り人は入れ替わり立ち替わり釣り場に入ってコマセを撒く。そのうちにメジナたちは、なにもサラシまで出かけなくてもエサが喰えることに気づきだした。大量のコマセが撒かれることで、それが潮に乗り、自分たちの棲家まで流されてくる。そもそも野生生物は怠惰な性格の持ち主。楽にエサが捕れれば、その方法に固執するようになる。サルやイノシシが山里に下りてきて農作物を荒らすのも、楽にしかも効率よく美味しいエサにありつけることを知ってしまった結果である。 メジナも自分たちの棲家にいながらにして、エサが潮で流されてくることを知り、あまり巣の外に出なくなった。一方、釣り師はサラシでは釣りにくくなった事を知り、他の方法を模索した。そこに出てきたのが「沈めさぐり釣り」。仕掛けそのものをウキごと沈めて行き、潮に乗せてどこかにあるはずのメジナの隠れ家をさぐる。そんな釣り方が流行り、メジナ釣りの革命となった時代もあった。今現在は、その「沈めさぐり釣り」をベースとした釣り方から派生したスタイルの釣り方がいくつか分岐し、それらが各々主流の釣り方となってきている。 このこととまったく同じことがカワハギにも当てはまる。本来は砂地の海底なら、吸い込んだ海水を口からジェットのように海底に向けて吹きつけ、砂に隠れていたゴカイやエビ・カニ類などを捕食していた。岩礁帯なら、岩礁に付着するエビ・カニ類や貝類、その他のものをついばむようにして食べていた。 10年ぐらい前からカワハギ釣りは、緩やかなカーブで人気が出だし、釣り人や釣り船が増えた。毎日、たくさんの仕掛けが降りてきて、そこにはエサがたくさんあることをカワハギは気づいた。船の音がすると、条件反射的にその場に集まり、エサを喰う。立っている仕掛けならエサだけを喰いちぎるように食べ、海底に張っている仕掛けならこっそりと喰った。10年前に流行ったタタキ釣りやタルマセ釣り。仕掛けを激しくシェイクしてエサの存在をアピールしたり、仕掛けを海底にはわせて安心して喰わせ、そしてハリにかけるという釣り方が流行した。現在でもまったく通じないわけではないが、最も有効な釣り方ではならなくなってきている。それはさらにカワハギが学習したからである。 ここ2〜3年でさらにカワハギ釣りはブームとなり、釣り人が増えた。釣りにくくなって来たカワハギをどのようにして釣るか、それはロッドやリールの革命を余儀なくされたのだった。 |
穂先が鋭敏化し、エサ盗り名人のカワハギがエサに触れる感触がロッドに伝わってくる。その情報を釣り人はどのように解釈し、どのタイミングで、どのように合わせてハリがかりさせるか。これからはそれが大きなポイントになるはずである。感覚的な話のようで、実はかなり理論的な話だったりもする。去年の釣りと今年の釣り方は微妙にシフトする。3年前の釣り方は、今の釣り方に合致しない場合も多い。先入観を強く持ちすぎると、その時代の流れについていかれなくなる。かといって、基礎的なことをおろそかにして、最先端のことばかりかじっていても実とはならない。その辺が現在の釣りの難しいところである。 |