2.マルイカと似てる? イカパンチの秘密
先日、三浦半島沖でマルイカ釣りに行ってきた。マルイカ釣りは好きで、毎年のように行っていたのだが、深場がほとんど。浅場に移った5月のマルイカ釣りは久しぶりだった。マルイカの釣り方は、ここ2〜3年の間にガラリと変身。特にマルイカが水深20〜30mの浅場にやってくるこの5〜7月の時期は、まるでカワハギ釣りの船に間違って乗ってしまったかのように、ほとんどの釣り師がサオを細かくシェイクさせて「たたき釣り」をしている。これは、仕掛けが直ブラといって、1cmほどの極端に短いエダスでスッテが結ばれ、これをサオでたたいて躍らせ、マルイカの好奇心に火をつけ、スッテに触らせ、スッテのカンナにかけるという釣り方だ。この時期はこの釣り方が主流になってしまっている。こうなると、もうほとんどルアーフィッシングの世界に近い。もちろんスッテも擬餌、言ってみればルアーなわけだから、シェイクして相手をいらいらさせたりといったルアーフィッシング独特の釣り方に似てくるのも納得はできる。
この新しい釣り方と仕掛けのあしらいに若干戸惑いつつも、一日やっていくうちにこの釣り方のコツをつかんできた。すると同時に面白いことに気がついた。ボクがイメージしていたマルイカの行動は違っていたことに気づいたのだ。マルイカはヤリイカと似た行動をしていると思っていたのだが、限りなくアオリイカの行動パターンに似ていると思ったのだ。
1)好奇心旺盛でいたずら好きな性格
|
アオリイカは、数匹程度の小さな群れか、単独で行動することが多い。移動しながらエサを探すことも多いが、海藻や岩などの影に擬態して潜んでいて、エサの通過するのを待ち構えていることも多い。 |
|
ボクは、それまでマルイカの行動はヤリイカに似ているものだと思っていた。姿も似ているし、群れで行動し、それなりのスピードで移動し続けて、エサを探しているものと思い込んでいた。魚探を見ながら投入指示する船頭の合図で仕掛けを入れる。群れはヤリイカのように移動するから、群れが通り過ぎると釣れなくなる。てっきりそうだと思っていたのだ。(深場でのブランコ仕掛けのみでやっていた時期の話)ところが、直ブラ仕掛けでたたく。ちょっと動きを止める。すると、サオ先にさまざまなアタリが伝わってくる。ビンビンというイカパンチだったり、グンッグゥッという逃げるときのもの、じわりとカレイ釣りのもたれるような感じに似たもの、その他もろもろ。えっこんなにマルイカのアタリはパターンが多かったのか? これはボクにとっては、とんでもなくセンセーショナルなことだった。マルイカは通り過ぎるのではなくて、その辺でふらふらしながら仕掛けを見ていたのだ。おそらくマルイカはスッテに触ってきたり、抱き込んだり、自分があれっと思ったものに対してこれは何なのかを確かめる行動がサオを伝わってきている。しかも、マルイカは移動し続けているのではなく、そこに留まってなにかをしている。これはヤリイカとは違い、タコのような行動だ。
もちろんタコは海底をはいまわりながら触るので、これをイカにそのまま当てはめるのも少々強引だが、好奇心の強さと、それを確かめようとする探究心の強さでは一致すると考えていいだろう。タコの腕は、とにかく先端部の感覚が優れている。しかも、なにか好奇心が刺激されると触ってみなければ気がすまない。何か気を引くものがあれば、触って確かめ、喰えるものは喰う。なんか変だと思えば放す。興味があって、まだ自分の中で解析できないときは、軽く持っていたり、一度放して、もう一度触りにくる。そんなことを考えているうちに、あれっ、イカなのにこういうタコ的な行動の代表格は、そういえばアオリイカだったと直感したのであった。 |
2)エギにビンビン、イカパンチ
|
|
|
2本の触腕を持っているが、ふだん泳ぐときは小さく縮めて格納している。ところがエサを捕らえるときは、自分のカラダの倍近くまでその触腕は伸びる。徐々にエサに近づき、ここぞというときにミサイルのように打ち込む。 |
|
|
アオリイカは、大きな眼でエサとなる生き物を探す。エサは、イワシやアジ、ネンブツダイ、シロギス、ハゼ類などのサカナの他、エビ類や時にはカニ類も捕食対象となるようである。 |
|
イカは、基本スタイルは足(正確には腕)が10本、そのうちの2本はどの種も触腕となっている。アオリイカもその類にもれず、触腕は2本持っていて、ふだん泳ぐときはコンパクトにたたんでいる。だが、捕食の際には限界まで伸ばし、エサを捕らえる。捕食の際には、エサに近づくが、エサもこれぐらい離れていたら大丈夫と油断する距離がある。それよりも近づいたらエサの生き物たちも逃げる。そんな自分なりの基準を生き物たちは持っている。
アオリイカは、大きな眼で相手の位置を確認し、エンペラを巧みに波打たせながらじわりじわりと相手との間合いをつめていく。エサとなる生き物が緊張しながらも、まだこれぐらいなら攻撃してこないと安心していると、アオリイカは、まるでミサイルでも打ち込むかのスピードで触腕を相手に打ち込む。しかもバネ仕掛けのように伸びる触腕は、相手が安全圏と思い込んでいる位置まで届く。まるでボクシングの世界のようであり、伸びる腕は相手に防御する余裕すら与えない長いリーチの攻撃と化す。しかも触腕の先端部は、獲物を捕らえやすいように小さな棘のはえた小さい吸盤とさらに細かい吸盤とが密に構成されていて、そのどこかに引っかかれば、それをいっきにカラダ側にたぐりよせて残りの8本の腕で相手に抱きつき、相手の動きを封じ、さらに口で噛んで相手を弱らせる。それからおもむろに喰う。これがアオリイカの捕食方法だ。
だからエギをゆっくりと引いたり、一瞬止めたときに、ビンビンッというまるで電気に触れたときのような不思議な感触が手元に伝わってくることがある。これぞまさにイカパンチ。アオリイカも好奇心は旺盛であり、喰いものであると判断したときの執着心とその探究心はまさにタコ系。エギをエサの生き物だと思い、触腕のジャブをエギに浴びせているのだ。それこそときには弄ぶようなこともしたりする。なんかこういった点でマルイカとの共通点がアオリイカにあるように思えてならない。おそらくアオリイカもマルイカも、相当知能の発達した生き物であるに違いない。