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1.これからが産卵期!

つい6月上旬、船からのアオリイカ釣りに行ってきました。ボクは一番大きなものでも1.7キロどまりの釣果でしたが、船内では最大3.1キロなんて化け物みたいに見える超大物も釣れていました。たしかにアオリイカの大物を狙うには絶好のチャンスタイムです。

ただ、釣ったアオリイカを家でさばいたとき、かなり卵巣が大きくなっていて、実に釣り人の勝手な感情ですが、少しかわいそうな気もしました。この関東周辺では、6月中旬から8月一杯ぐらいが産卵期。8月は禁漁とか、7月中旬から8月一杯まできちんと禁漁としているエリアも多く、この辺はマナーを守りたいですね。

さて、産卵というとどのようなドラマが展開しているのでしょうか?

そこら中のアオリイカが産卵場に集結する

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産卵期となると、どこからともなくアオリイカのオスメスが集まり、一対のペアができあがります。ですが、油断もすきもない世界で、他のオスが自分のメスにちょっかいを出してくることもしばしばです。

最近は、アオリイカの資源を保護しようと、漁協単位で山から椎の木などを切ってきて、海中に沈めるところも多いです。これは産卵床(さんらんしょう)といって、アオリイカが卵を生みやすいように枝葉のついた木を沈め、土俵などの重しで海底に固定したもの。

アオリイカは、本来、海藻の根元やサンゴ類の間に卵を生みます。前述のような人工的な産卵床にも積極的に卵を生みつけます。水深的には、浅いところで水深5メートル、だいたい20〜30メートルのところを好んで産卵するようです。ただし、例えば八丈島などでは水深70メートル近辺のサンゴに産み付けるという報告があります。八丈島や小笠原には5キロを超える超大型アオリイカがいることが知られていますが、どうも関東近海にいるアオリイカとは別種ではないかという見方が専門家たちの間ではなされています。きわめて近い親戚であるには違いないのですが、もしかしたら八丈島のアオリイカは種類が違うために水深70メートル以深など、さらに深いところで産卵がなされているのかもしれません。

さて、産卵というと、やはりアオリイカたちにとっても自分たちの遺伝子を残せるかどうかの一大イベントです。生き物たちの基本的な法則として、メスは力の強いオスを求めます。力の強いオスの遺伝子を残すことイクオール、種としての繁栄という生物の基本法則に似た何かが彼らの中にも刷り込まれているのでしょう。

アオリイカは産卵期になると、どこからともなく産卵場所にぞくぞくと集まってきます。オスとメスとがそこで出会い、一対のカップルができます。中には別の場所で出会ってカップルとなったオスメスが産卵場所に来るというケースもあるようです。

カップルとなった一対のオスメス。ところが、他のオスも黙ってはいません。そのメスにちょっかいを出します。最初のオスが強ければ、簡単にそんな相手は撃退してしまうのですが、ちょっかいをだすオス側は、姑息な手段を使ってきます。あるオスとオスとがメスをめぐって喧嘩しているすきに、一瞬フリーになっているメスを横取りすることも少なくありません。また力の拮抗したオス同士だと、触手でつかんで噛み付いたり、かなり激しい闘争を繰り返します。だから産卵期に突入すると、オスのカラダはキズだらけになることが多いようです。

また、時にはとてもイカとは思えないようなテクニックを使うこともあります。例えば、あるオスがいて、自分の左側にメス、自分の右側に警戒すべき他のオスがいたとします。すると、そのオスは自分のカラダの色を右と左でまったく異なる色を呈することがしばしばあります。メスに向いた左側は、メスに対してやさしい気持ちを表していて、しかもネオンのように色を変えながら積極的に自分を相手にアピール。右側のオスに対しては真っ黒い色になって相手に対して興奮し、敵意を持っているという表現をします。こんなとき、カラダ半分を境に、左右でまるっきり色が違います。右の顔で怒って、左の顔でにこにこして…。こんな芸当は、どんなにすばらしい役者さんでも無理でしょう。そんなウルトラC以上の難易度のあるテクニックを、いとも簡単にやってしまえるところがアオリイカの凄いところでもあるでしょう。

オスがメスをやさしくエスコート

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メスはオスにエスコートされて産卵場に入り、房状の卵を生み、大きな卵塊となります。透明な卵も、時間経過とともに白濁した色となり、徐々に薄汚れた感じになります。

カップルがきちんと成立すると、オスは精子の入ったカプセル(精夾せいきょう)を、交接することによってメスの体内に差し入れます。そのカプセルが卵巣内で割れて、メスの体内で受精します。その受精卵をメスが生みつけます。卵は、ちょうど銀球鉄砲の弾の大きさぐらいの透明な粒で、これがさやえんどうのような形の透明の房に、3〜4粒ほどひとつひとつ独立した部屋にひとつずつ入っています。この卵の房を、海藻の根元、サンゴの間、前述の産卵床に生みつけていきます。そのときも、ペアのオスは、きちんと産卵場に案内し、そのメスが卵を生み終わるまでそばにいます。生み終わるとまた寄り添って、その場をペアで去ります。

そのさまは、とてもボクにはまねできないほどメスに対して細やかな配慮がなされ、また他のオスの邪魔が入らないように、まるでボディガードのような行動もとります。究極の愛の姿とでもいいましょうか、ボクも含めて世の男衆はアオリイカのオスを見習う必要があるかもしれません。(笑い)

生み付けられた卵は、徐々に白濁して、さらに海中のコケのようなものが付着して、透明から白色、黄土色へと変化していきます。その中でアオリイカの幼体は成長し、およそ3週間から1月ほどで、1センチ5ミリほどに成長し、卵の外幕を破って誕生します。

ところが、そこは海の自然の厳しいところです。生まれる幼体をウツボ、ミノカサゴ、その他のサカナが待ち受けていて、かなり高い確率で、一瞬のうちに喰われてしまうようです。幼体も小さいながらも墨を吐いて逃げようとするのですが、残念ながら外敵からなかなかうまく逃れられてはいないようです。

秋は小型中心

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八丈島や小笠原には、本州や四国、九州にいるのよりはるかに大きなアオリイカがいます。重量も5キロを越えるものも少なくなく、いくらエサが豊富であったとしても、違う種類であると考えてしまうのも無理はないでしょう。

夏に生まれたアオリイカの子供は、小さなエビカニ類などを食べて日に日に大きくなります。秋になると、100〜200グラムに成長し、小型のエギに乗るようになります。このときは陸っぱりの方が有利。数を釣るなら、秋以降がチャンスタイムです。

イカは1年で成長し、卵を生むと死ぬといわれていますが、先日の船釣りで見た3.1キロのアオリイカが、たった一年でここまで成長したとは信じられません。ハゼのデキハゼと同じように、その年に成熟できなかったイカがさらにもう一年越冬して大きくなるのか、そもそもアオリイカの寿命が1年ではなく、何年か生きるものなのかもしれません。その辺はまだまだいろいろと調べられていくでしょうし、日本にいるアオリイカが伊豆や南紀、四国九州などに棲む通常型種、八丈や小笠原にいる超大型種、沖縄南部にいる小型種の3種に細かく分類される日もそう遠くないかもしれません。

※釣魚水中生態学入門より移設