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2.姿かたち、生態系までバランスの取れた海のサイボーグ

サカナというのは面白い。何が面白いかといえば、同じ仲間なのに形体が違うし、それぞれの生態系を持っているからだ。たとえば、フィッシュイーターと呼ばれるサカナ。そのほとんどがルアーフィッシングのターゲットになっているはずだが、使うルアーも違えば、ルアーのアクションのつけかたも違う。

それはなぜか?

ボクは同じフィッシュイーターのサカナでも、サカナとしての進化のプロセスがそこに垣間見れると考えているのだ。

1)スズキ、カツオ、カンパチの3パターン

まず大きくそのパターンとして3つに分類すると、スズキ、カンパチ、カツオに分類されるだろう。

スズキは、魚体的にも、ウロコが大きく、口も大きいというサカナの原型的な形体。

これは、同じサカナを食べて生きているサカナの中でも、泳ぐのがさほど速くなく、大きな口で海水ごと小魚を吸い込んで食べるというタイプ。高速で泳ぐ小魚は追いきれないため、小魚の群れの中に突入して海水ごと吸い込む、または弱った小魚を狙い撃ちして食べるというパターン。効率は悪く、よくここまでこの方法をとり続けたと表彰してあげたいぐらい、伝統的ともいえる捕食方法だ。

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捕食の際は、まるで弾丸のようなスピードでエサとなるサカナを追いかける。そのスピードを得るためにウロコは細かくなって抵抗を減らす進化を遂げた。

そのスズキパターンとは正反対に位置するのがカツオだろう。

カツオやマグロは、外洋に棲息。外洋はあまりにも広く、意外とエサとなる小魚との遭遇チャンスは少ない。そのため、高速で泳ぐことを手に入れて、広範囲にわたっての探索を可能にし、その際に見つけた小魚はそのスピードで追いつき、確実にゲットするという方向性を貫いている。だからウロコを退化させてまで泳ぐときの水の抵抗をへらし、理想的な流線型のボディを手に入れている。スズキのように異様に大きな口も必要とせず、泳ぐことで口から入る海水中の酸素を得て、しかも高速で泳ぐ際に出る体温を体表に集まっている毛細血管がまるでラジエターのような構造になっていてカラダを冷やすというハイテクまで駆使されている。

そんなカツオのようなハイテクでも、スズキのようなローテクでもないのがカンパチ。

やはり高速で泳いで捕食するためにウロコは小型化し、よりウロコを密に自分のカラダにはりつかせることで泳ぐ際の水の抵抗を減らしている。口もスズキほど大型ではないものの、小魚に追いついてくわえる、海水ごと吸い込むという両方の方法を可能にしている。また口の中にはザラザラとした平たいヤスリのような歯があり、一度くわえた小魚を逃がさない構造にもなっている。つまり、スズキとカツオの「いいとこどり」のような形体と生態を持つバランスの取れたサカナといえるだろう。

2)やはりくわえなおすという噂は本当だった

釣り師たちの間では、カンパチなどは小魚に後ろから追いかけて捕食し、飲み込むときはそのままではヒレなどが邪魔になるからくわえなおして、頭から飲み込むと噂されている。ボクも最初は理屈はそうかもしれないけど、ちょっとマユツバものの話と思っていた。

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クマザサハナムロの群れの下層にいついている10kg超のヒレナガカンパチ。だがよく見ると、口からかなり太いハリスのヒゲが伸びている。

ところが、小笠原の父島沖の海中で、まさにそのシーンをまのあたりにしてしまったのだ。その日、ボクは群青色に抜けた海の中を潜っていた。上層にはクマザサハナムロという、沖縄ではグルクンと呼ばれているサカナが群れていた。クマザサハナムロの群れが水深5〜7mだとすると、その下の水深20〜30mの層をときおり10kg超えの大型カンパチ(正確にはヒレナガカンパチ。背ビレと尻ビレが鎌状に長いタイプ)が回遊していた。

どうやらカンパチは、この群れについて、腹が減ると群れを襲って捕食していたようだ。だから食い気のないときは、クマザサハナムロたちも無意味におびえることなく、群れにも緊張なく、カンパチものんびりと泳いでいるという感じだった。

ところがドラマはそんな平和なときに起きた。ボクの目の前を1尾のクマザサハナムロが大慌てで逃げていった。そしてそのすぐ直後に、ボクのわきを10kg超えのカンパチが猛スピードですりぬけていった。20mほど先でウロコが散った。そのカンパチはクマザサハナムロに追いつき捕食したようだ。

カンパチはゆっくりとUターンしてきた。捕食したサカナが入っているのだろう。頬を膨らませ、口をもぐもぐと動かしながらゆっくりと泳いでいた。もう一度大きく口をモグモグさせると、口先にクマザサハナムロの尾ビレがピローンっとはみだしてでてきた。この一回限りの目撃例だけでは断言できな部分もあるが、どうやら噂は本当のようなのだ。

3)好奇心旺盛な幼魚・若魚時代

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カンパチは、幼魚・若魚時代は特に好奇心が強い。ダイバーが潜って吐き出す泡に強い興味を示して手が届くぐらい近いところまで寄ってくることも少なくない。

釣り師たちは、よくダイバーの潜っているところはサカナが避けて通るというが、それは釣り師の思い過ごしだ。しかもカンパチの場合は、特に幼魚・若魚時代は逆によってくるという習性があるほど。

どうやらダイバーがはく泡がキラキラと輝くため、それが小魚の群れに見えるのか、なにか好奇心をくすぐるものに見えるのか? とにかくダイバーをカンパチの群れが取り囲むというケースは非常に多い。

またもうひとつ面白い事例として、もう相当前の話になるが、ボクがとある水族館で研修していたときのこと。ちょうど三宅島で採集してきたというサカナたちが展示の裏側にある大きな水槽に入れられていた。その中にカンパチの幼魚が10数尾まじっていた。

ボクの中にふとした「いたずら心」がよぎった。水面で指をうごめかせたらカンパチが指に食いつかないかということだった。やってみて驚いた。まさに入れ食いなのである(笑い)。口をあけて指先を吸い込む。口の中は一度入ったものを逃さないように前述のようなヤスリ状の歯があり、それがひっかかって指をあげるとぶらさがってくるほどだった。

いずれにせよ好奇心にあふれたサカナであることにかわりはなく、ルアーの好ターゲットになっていることはうなずける。

※釣魚考撮より移設