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1.サカナなのに、集団で狩りをする狡猾なサイボーグ!

船からのジギング、活きエサ流し釣りなどの大物釣りのターゲットとして知られるカンパチ。頭部にちょうど「はちまき」をしたような、背ビレ側から見ると漢数字の「八」の字が描いてあるかのような暗褐色の模様。それがカンパチ(勘八)の名の由来です。

カンパチにはホンカンパと呼ばれるカンパチとバケカンパと呼ばれるヒレナガカンパチの2種類が生息することが知られています。前者は、尾ビレの下側後端に白い班があること、後者は背ビレが前者よりもかなり長く、しかも鎌型になっていることで、慣れれば簡単に見分けることができます。また後者の方が生息域が南に偏っていますので、南日本になればなるほどヒレナガカンパチであることの方が多くなります。

また、カンパチの仲間のうち、特に南方の海で釣れた超大型は、シガテラ毒という毒を持っている場合があるので食べないほうがいいでしょう。これは食物連鎖の末に、シガテラ毒を持った小魚を捕食し続けたことによるカンパチのカラダへの毒の蓄積によるもの。

そもそもこの毒を持っているのはプランクトンなのですが、そのプランクトンを捕食したサカナを捕食するということで毒が蓄積すると考えられています。

シガテラ毒ではよほどのことがない限り命を落とすことはないようですが、激しい下痢と嘔吐、感覚の異常、めまいなどの症状があるとされています。

高速遊泳が圧倒的な捕食性能を生み出す

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背ビレが釜状のヒレナガカンパチ。カンパチは背ビレも短く、釜状にならないことで簡単に見分けられます。カンパチよりも南に分布域が広がります。ウロコは細かくなり、高速で泳ぐ方向にカラダも進化したサカナです。

いわゆるフィッシュイーターと呼ばれるサカナがいます。サカナを食べて生きているサカナたちのことで、そのほとんどがルアーフィッシングの対象となります。

例えば、シーバスと呼ばれるスズキ。フィッシュイーターの代表格なのですが、実はあまり捕食行動としては巧みではありません。彼らの生息環境が水温変化の大きいところであり、またサカナの進化の過程では原型に近いサカナなので、大きなウロコを全身に配しています。そのウロコが抵抗となるため遊泳スピードが遅く、エサとなるサカナたちよりも遅い場合すらあるほど。その泳ぎの不器用な部分をカバーするために、大きな口があるのです。ガバッと大きな口を開けて水ごと小魚を吸い込む。そんな捕食方法なので、捕食ミスも多く、捕食が上手なフィッシュイーターではないのです。

捕食行動が巧みなのは、やはりカツオやマグロの仲間でしょう。高速で泳ぐために少しでも抵抗となるウロコのほとんどは退化しています。残された部分のウロコは細かく、可能な限り抵抗とならないように進化してきているのです。エサとなるサカナよりもスピードで勝り、群れに突入して捕食する。口はスズキのようにガバッと開ける必要はなく、無駄のない行動で確実に捕食するのです。

また、カンパチなどは、この分け方でいくと、カツオやマグロに近いものがあります。スピードを得るために、ウロコは細かくなっています。高速で泳いでエサを追い、まるでサバンナのチーターが獲物を獲るかのようです。

小笠原の父島で、1尾のヒレナガカンパチが1尾のムロアジの仲間を追いかけ、追いついて背後から喰いつくシーンをたまたま目撃することができました。また、背後から喰った場合は、口の中で器用に喰ったサカナの向きを変え、頭から飲み込むという行動も一緒に目撃することができました。よく釣り人たちの間で言われるように、カンパチは背後から襲い、口の中で獲物の向きを変えるという芸当すらできてしまうのです。

団体戦で小魚の群れを襲うこともある

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カンパチの仲間はある程度のサイズまでは群れで行動しますが、老成魚となるとほとんどの場合、単独行動が多くなります。老成魚のサイズは、ヒレナガカンパチよりもカンパチの方が大きくなると考えられています。
カンパチの仲間は、驚いたことに群れで隊形を作って、頭脳的な狩りをします。誰に教わったのか、また誰が掛け声をかけているのかはわかりませんが、小魚の群れの動きをみんなで封じ、効率よいハンティングをするのです。

スピードに物を言わせて強引な喰い方をするのとばかり思っていたら、とてもサカナの知能とは思えないような狡猾さもカンパチは持ち合わせている場面を目撃しました。

それは西伊豆でのことです。緩い潮が流れていた沖の根。水深は、周囲は30メートル以上の深さのある場所なのですが、ちょうど台地のように海底から立ち上がって、平らになっている場所がありました。そこに西伊豆ではよくみかけるキビナゴの群れを見つけました。数は千や二千はくだらない、おそらく1万尾ぐらいだったのではないかと記憶しています。群れは大きくなったり小さくなったりを繰り返しながら、その根をゆっくりと通り過ぎようとしていたときのこと。

いきなり群れの動き方が固まったと思うと、その周囲を6尾ほどのヒレナガカンパチが取り囲みました。ヒレナガカンパチはまだ若魚という感じで、全長60センチほど。みるみるうちにその6尾は隊形を整え始めたのです。左右の両側をそれぞれ2尾ずつ、多少深さを変えて挟み込むようにして、キビナゴの横への動きを封じました。横へ逃げられない群れは前後の方向に膨らもうとするのですが、後方から群れを追っていた2尾のうちの1尾がキビナゴの群れを追い抜き、反転しました。その時点でキビナゴの群れは前後左右への動きを封じられ、巨大な球状に群れの形状が変わったとたんのことでした。先頭の1尾がその群れに突入。それと同時に、他のヒレナガカンパチも群れに突入。キビナゴの群れはパニック状態になり、群れの形が大きく崩れたのです。まるでキビナゴたちの悲鳴が聞こえるような壮絶なシーンでした。

ヒレナガカンパチはというと、その形の崩れたキビナゴの群れの中を縦横無尽に泳ぎまわりながら捕食。あまりにも素早すぎてひとつひとつのヒレナガカンパチの動きを確認できないほどです。でも、確実に喰われているのがわかるのは、キビナゴのウロコがキラキラと光りながら落ちてくるのです。

キビナゴの群れが完全に散り散りになったころ、どれだけのキビナゴを捕食したのかはわかりませんでしたが、ヒレナガカンパチの群れは去りました。

しばらくすると、4つぐらいに分かれたキビナゴの群れをそれぞれ根の上の別の場所で見つけましたが、その数は相当減っていました。でも、ヒレナガカンパチが隊形を作って、まさに戦略的にエサとなるサカナの群れを効果的に襲うことができる能力を持ち合わせていることは、実に驚くべき事実でした。

※釣魚水中生態学入門より移設