ソルトの世界では圧倒的な人気を誇るであろうロウニンアジ。通称GT(Giant Trevallyの略。以前はGreat Trevallyの略との説もあったが、ジャイアントが正しい)。 ジャイアントの名があるとおり、サイズは大きく全長は1.5m、体重も50kg超にもなる。フッキング後の疾走は、とてもサカナの走りとは思えないほどスピーディー且つパワフルに満ちている。どちらかというとフィッシングというより、格闘に近い世界である。噛む力も強く、時にはルアーが完全に破壊されてしまうこともある。 GTの生息域が南洋の海であり、サンゴ礁等のあるスリリングな厳しい環境での釣りとなるため、フッキングし(掛け)ても根ズレでラインブレイクしたりと、なかなか手強く安易に獲れなかったりする。そんな難しさと、想像を絶するヒキの強靭さ、大物への憧れといった要素がこのターゲットの人気の秘密なのだろう。 和名ではロウニンアジ。誰が命名したのかまでは明確ではないが、このサカナがほとんど単独で行動することから「浪人鯵」という名がつけられたと推論されている。 現に海の中で見るGTは、かなりの確率で単独行動している。特にサンゴ礁海域の下が大きくえぐれた洞窟状の場所などで日中は潜んでいることが多い。国内で例を挙げれば、そんな場所が多く点在する与那国島などでは、30〜40kgぐらいの超良型が洞窟に単独で潜んでいて、お互い(そこを潜っているボクとGTということ)に出会った相手にビックリさせられることも多い。 |
釣り人には圧倒的な人気がありながら、水産業的にはあまり市場価値がない。(過去、GTを食べてみたが正直美味しいとは言えなかった。から揚げにすれば、そこそこ美味しくはいただけるといった感じである)そのためか、このサカナの生態的な研究はあまりなされておらず、どこで産卵し、幼魚期にはどこでどう育ってあそこまで大型になるのかなどの詳しいライフサイクルがいまだによくわかっていない。 ただ、ボクのつかんでいる情報としては、例えば与那国島では毎年6月ごろに、水深45〜50mの激流域で何百から千近い数の超大型GTの群れの目撃例がある。ほとんど単独行動の多いはずのGTがこれだけ群れるというのは、産卵行動のためではないかと考えられる。仮にここで産卵が行なわれたとして、ここでの産卵後に生まれた稚魚はどこかの内海に入るのだろうが、いくつか内海で釣れたと言う報告例以外、GTの幼魚が大量に釣れたと言う話は聞かない。 また、神奈川県の内水面域(河川)でも幼魚の発見例があり、どこでどのように幼魚時代を過ごしているかが、ほとんど判っていないというのが現状である。 |
海の中で泳ぐGTの姿は、日本国内では与那国島や慶良間群島などでたまに見られる程度だが、やはり海外にもなれば、とんでもない数がいるものだ。ついこの間潜ってきたバラオでは、激流の中を潮の流れに逆らってスイスイと泳ぐ姿がよく見られた。こちらは激流の中で海底の岩にしがみついていることしかできないというのに、やはり泳ぎに長けたサカナは偉大である。 さらに、そこから少し離れた場所では、おびただしい数のギンガメアジの群れの下側に何匹かのGTがついていて、空腹時にはギンガメアジを襲って食べているようである。 また、と或るところ(申し訳ないが秘密)では、GTが完全に棲み付いている場所がある。昨年末にそこに潜ったが、ときおり見せる捕食行動はこちらがたじろいでしまうほどのド迫力。水深30〜40mぐらいをゆったりと泳いでいたGT。ところが、なにかによってスイッチが入ったのだろう。突然、その動きにキレの鋭さと緊張感が漂ったと思ったら、一気に海面近くまで泳ぎあがった。ボクはこのとき水深25m付近にいたのだが、遠目に小魚の群れがパッと散ったところを見ると、どうやらその中の一匹をGTが捕食したのだろう。何事もなかったかのように泳ぎ戻ってきたGTは、何回か口をモグモグとさせた後、大きく口を開いてあくびをするようにして、さらにエラを開いて口を閉じると同時に吸い込んだ水をエラから吹きだした。 その時、キラキラと小魚のウロコらしきものが散った。このスイッチがどのようにしてオンになるのか。GTはまだまだ謎多き巨魚である。 |