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1.GTジャイアント・トレバリー巨大なヒラアジという怪物!

ソルトルアーのターゲットとして、金字塔のように輝いているのが、やはりGT(ジーティー)。ジャイアント・トレバリー(Giant Trevally)の頭文字をとったもので、正式にはロウニンアジのことです。全長は最大で1.8メートル、体重も80キロクラスまでいることが知られています。

もう8年以上も前に、ボクも沖縄の与那国島で30キロ近いGTをボートからのトップウォーターミノーで釣り上げたことがあります。とてもサカナのヒキとは思えないパワーとスピードがあり、ソルトルアーマンの憧れであることがうなづけます。

ひとりぼっちでいることが多いことから浪人鯵

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巨大なヒラアジであるロウニンアジ。俗称GT。その名前から、すでにサカナという概念を越えたエネルギーの塊りのようなイメージがあります。ソルトルアーをやる人なら、必ず一度は釣ってみたいという憧れのサカナです。

いわゆる幼魚・若魚時代は群れを作ることがありますが、このロウニンアジに関しては、特に老成魚となると単独でいることが多いです。エサとなる小魚の群れの下層にいて、捕食のタイミングとなると小魚を襲って食べる。

そんな生態が多くみられます。

また、海底の穴や大きくオーバーハングしたような地形の薄暗いところに隠れていることも多いです。

だれが名づけたかはわかりませんが、単独でいることが浪人の姿であるようなイメージから浪人鯵と名づけられたようです。また、えら蓋のところの筋がスパッと刀で切られたような形をしていることから、刀キズのある浪人というイメージで名づけられたという説もあります。

とにかく小魚の群れの下層にいるときは、潮の流れの中でもほとんどそのいる場所は変えず、ジッとしているように見えます。ジッとしているように見えても、かなりの潮の流れの中にいることが多いので、おそらく尾ビレは軽くあおっているのでしょうが、とても一生懸命に泳いでいるようには見えません。平たく水の抵抗の少ないカラダだからこそできるワザなのでしょう。

喰い気のないときは、特にどこを見ているという感じでもないのですが、捕食のスイッチが入ろうとしているときは、やはり上層の小魚の動向を観察しています。群れの中の変な動きをするサカナ。おそらくこれは経験的に群れから脱落するであろうなんらかの理由を見抜いているのでしょう。例えば、キズを負ったとか、弱っているとか。そんな個体は見逃しません。

また、そのような小魚の個体がいなくても、スピードとパワーとで小魚の群れの中に突進し、慌てふためく小魚を捕食する場合も多いようです。ただ面白いのは、捕食のタイミングになるとき、小魚もただならぬ気配を察知しています。それまで群れがかなり広範囲に散らばっていたのに、襲われる前はなにかソワソワとした感じで、群れそのものも広範囲に散らばらず、密度の濃い状態になります。襲われる側も、間違いなくなんらかの気配を感じているようです。

水深30〜40メートルからの猛ダッシュ

ロウニンアジの泳層はやや深めです。パラオでも、フィジーでも、与那国島でも、彼らを見るのはだいたい30〜40メートルの水深にいました。ときにはさらに深いところにいるのが見えたりもします。当然、その泳層付近でエサを見つければ、それを捕食することも多くあります。ですが、やはり多いパターンは、水深10〜15メートルあたりに群れる小魚を襲うこと。小魚といっても、ムロアジやグルクン(クマザサハナムロ)の仲間などであり、30〜40センチあるものです。あくまでもロウニンアジに対しては小魚ということです。

一度だけパラオの海で捕食シーンを目撃したことがあります。そのロウニンアジは、30〜40メートルの泳層から猛ダッシュで海面近くまで泳ぎあがり、グルクンの仲間の群れに突入。群れはあわてて密度を高めて固まりながらさらに浅い層に泳ぎあがります。そこにロウニンアジは突入し、群れはぐちゃぐちゃになって、何がどうなったのかよくわからなかったのですが、ロウニンアジは口をもぐもぐと動かしながら深みに戻ってきましたし、その上層から小さなウロコがキラキラと輝きながら降ってきたことを考えると、これがまさに彼らの捕食シーンであったと考えられるでしょう。

黒い個体と白い個体の謎

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ロウニンアジをめぐる謎のひとつに、真っ黒い体色の個体がいることです。それはまったく個体として珍しくはなく、カムフラージュのためなのか、興奮状態にいるためなのか、その理由はまったくわかっていません。
なぜか海底が砂地やサンゴ礁域の場合は、ロウニンアジの体色も白っぽいというか、銀白色である場合が多いです。この魚体も1メートルは完全に超えていて、老成すると色が黒っぽくなるわけではないようです。

まだまだロウニンアジの生態はよくわかっていません。例えば産卵においても、いつどのようにどこで行なわれているのかもわかっていません。ただ、日本国内で、しかも与那国島で考えると、地元のダイバーが6月ころに水深50メートルぐらいのところで巨大なロウニンアジが集まった群れを目撃したという報告が何例かあります。数も100や200ではきかない数といいますから、これはふだんほとんど単独行動のロウニンアジとしては珍しいことであり、生態的ななんらかの理由が考えられます。その場合、ほとんどが産卵行動である場合が多いものです。ただし、もしもこれが産卵行動であったとしても、そのまま深場で産卵が行なわれるのか、他のサカナのように夜間などに浅場に移動して行なわれるのか、まだその辺に関しても何もわかっていません。

また、これはまったく産卵行動とは関係ないと思いますが、ロウニンアジには、真っ黒い個体と白っぽいというか白銀系の個体が見られることも謎のひとつです。海底が砂地のところ、またはサンゴ礁域では白銀系しか見られないのですが、岩礁帯では真っ黒の個体と白銀系とが見られます。単純に生息域によって、目立たないように体色を変えているのか?、それともオスメスの違いなのか?、または種類が微妙に異なるのか?、それとも捕食などの興奮状態になると真っ黒くなるのか?、この辺のことになると、まだまったく何もわかっていないというのが現状です。

謎多き巨大なヒラアジ・GT。釣り師が夢を追うターゲットとして、いつまでも謎多き魅力を見せ続けて欲しいサカナです。

※釣魚水中生態学入門より移設