今冬は、シーズン前に発表された「暖冬」とは正反対に寒い冬であった。桜の開花も例年よりも遅れるのだろうか(?)。
海の中もどうやら春の海への変化が遅れ気味のようである。だが、先日、内房でクロダイの超大型が釣れたといい、乗っこみの兆候がぼちぼちと見られ始めたと言う情報も入ってきている。
さて、このクロダイの乗っこみ情報は磯釣り師ばかりではなく、海釣りをする者なら気になるはずである。乗っこみ時期には大型が釣れる、数が釣れるという魅力、そして何より他のサカナにおいてもクロダイの乗っこみがきちんと見られる年は比較的釣況も良いことから、その年の釣果を占う上でも貴重な情報なのだ。
この乗っこみ期に、ボクはよく五島列島まで釣りに行く。もちろん、60cmを超えるような超弩級クロダイが釣れる確率も高く、大物を狙うためである。
ところが、この時期の釣果には大きな浮き沈みが見られるのが特徴だ。あるところは大釣りし、またあるところではぐりんぐりんのボウズといったように・・・。まあ、元々クロダイ釣りの釣果には、常に不安定がつきものだが、乗っこみ期の釣果ほどムラが見られるのも珍しいだろう。
面白いことに「或る日、と或る釣り場で大釣りがあった」という確かな情報を得て、勇んで翌日に行ってみると、意外にもボウズをくらったりもする。
「この理由は一体なんなんだろう?」。
その答えを数年前に下関の海中で発見したのだった。
ちょうど3月の中旬。下関界隈ではクロダイの乗っこみが始まる時期である。
このとき、と或るイベントの展示映像を撮るために、下関周辺を関門海峡も含めて水中撮影(僕の本業でもある水中撮影・・・)をボクは行なっていた。関門海峡を玄界灘側に抜けてから北上し、小島が点在する海域を潜ったときのことだった。
ある場所にやたらと多くのクロダイが見られた。しかも、そのクロダイみんな40cmを優に超える良型ばかり。群れを作っているというよりも、何らかの理由があって集まってきているという感じだった。
そもそもクロダイは、若魚(全長25cmぐらいまで)時期まではそこそこの群れを作ることもあるが、成魚になるにつれて単独行動をとることが多く、老成魚にもなれば必ずと言っていいほど単独行動となる。このように集まるというのは、彼らにとっての大きなイベント行動、具体的には産卵行動のためと考えて間違いないだろう。
不思議だったのは、その日は島の東側には20尾以上のクロダイが見られたのに対し、南側ではまったく見られず、西側ではたったの1尾確認できただけだった。
その島も、島といっても大きな島ではなく、一周1kmにも満たない規模のもの。そんな場所でも明確に「クロダイの集まっている場所と、まったくいない場所」が大きな差をもって確認できたのだ。
さらに不思議なことに、その翌日、まったく同じ場所を潜ってみたのだが、前日あれだけ集まっていたクロダイが、まったく見られない。あちこちとその島の裏側まで見に行ったのだが、まったくいない。
どこかに集団で移動してしまったのだろう????
それがどういう理由で場所を変えるのか????
潮の当たり方なのか????
クロダイの集団のリーダー的存在の気まぐれなのか????
波やサラシの状態からなのか????
いずれも一切わからない。ただ、ここでひとつだけ間違いなく言えることは、ある場所に集まるが、その集まる場所が毎日同じ場所ではないということ。これはある意味、彼らの種の保存のための賢い知恵なのかもしれない。
同じ場所で毎日産卵行為を行うと、何らかの理由で生み出された卵がことごとく全滅する危険性がある。しかし、毎日のように場所を変えることで、卵が仮にどこかのエリア分が全滅したとしても、違う場所で産み落とされたものが残る。そういった本能的な行動によるものなのかもしれない。
ということは、ボクたち釣り師として、この行動を逆手にとるならば、乗っこみ期にある磯に乗って釣れない場合は、早めに見切りをつけて他の磯に磯替わりした方が良いということだろう。いくら乗った磯が今まで実績の高いA級の名礁であったとしても、クロダイがいないのでは釣れまい。その日のクロダイの集まる場所を探る上でも、釣れなければ違う磯に移動した方がボクは必ず釣果につながるはずだと考えている。しかも意外な場所に集まっていることも少なくなく、こんなところとたかをくくらずに試してみることも必要だろう。
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また、この下関の水中観察で、もうひとつ面白いことに気がついた。 普段のクロダイの泳層は、海底付近を海底のラインに沿って泳ぐ。 ところが、この乗っこみ期のクロダイは、かなり浅い層を泳いでいたのだ。決して、この場所にコマセが撒かれて上ずっていたワケではない。 やはり、産卵行為が浅い層で行われる関係で、この時期は浅い層を泳ぐのかもしれない。この下関で見たときは、水深が8〜10mといったところなのに、実際にクロダイが泳ぎ回っていた層は3〜5mといった水深だった。 ということは、この時期のクロダイは、ちょうどメジナ狙いの場合のように、2〜3ヒロといったタナから攻めるのがいいだろう。また、コマセの配合そのものも、比重の軽いものを使って、コマセをゆっくりと沈下させ、なるべく浅いタナで喰わせるというのが有効な方法と考えられるわけである。 今年のクロダイの乗っこみには、前述の磯替え作戦と、浅いタナ攻略作戦とを実践していただきたい。 |