6年ほど前に、カレイ釣りの本場・仙台湾にカレイを釣りに行ったことがある。そのとき仙台市内の釣具店をのぞいてみると、蛍光ピンクのオモリから、まるでルアーを思わせるかのようなデコレーションの施された仕掛けが売られていて驚かされたことを思い出す。
なぜこんな派手な仕掛けになるのか、結局は海の中に潜って、彼らの生態を観察することでその謎は解けた。
カレイの仲間は、海底が砂や泥、それらの混じったようなところを好んで棲む。特に潮の流れがあるような場所は、海底に起伏ができやすく、そういったところに多く見られる傾向がある。
サカナの捕食行動は大きく二つのパターンに分かれる。
ひとつは大きく行動範囲を持ち、その中を回遊してエサを探して捕食するタイプ。
もうひとつは待ち受けタイプで、じっとエサが目の前を通るのを待ち、通った瞬間に捕食するタイプだ。
カレイは、どちらかというと後者に属し、海底に同化して潜み、小さな甲殻類やイソメ類を捕食する。どちらかというとという表現をしたのは、カレイも待ち受けタイプには違いないのだが、より捕食確率を高めるためにある程度は動き回り、単なる待ち受けにはない積極性も見られるからである。
彼らは、特に他のサカナが捕食しているような行動、例えば砂地を掘って食べているとか、暴れて食べていて海底を濁してしまっているという行動には敏感に反応する。おそらく好奇心の旺盛さがなす行動なのであろうが、同時におこぼれに預かろうという魂胆もあるようである。
昨年、北海道のとある場所で潜ったときも、ボクが海底で自分のフィン(足ヒレ)で海底をあおって濁らせると、どこからともなくカレイが集まり、その濁りがおさまると十数尾の良型カレイが足元に集まっていた。これは、海底の砂や泥が巻き上がると、そこに隠れているはずのゴカイ類や小型甲殻類などが一瞬顔を出し、あわてて潜るという捕食チャンスがあることを本能的に知っているからなのだ。
彼らの場合、なにか行動をおこそうとするとき、カラダの中心線(背骨の向き)を軸に、カラダを内側にそらせて待機する。その場合も、例えば静かにエサに近づこうとするようなケースでは、周囲にあるヒレ(背ビレ、腹ビレ、尻ビレ)を微妙に波打たせて超微測前進することも可能だ。また、飛び掛るようなとき、逃げるときなどは、さらにちょうど手をお椀型にしてふせたような形でパワーを蓄え、まるでバネがはじけたように一瞬で飛び立つ行動にも出る。
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また、カレイの目は動くものに対してとても敏感である。ただ視力そのものはあまり良くないようで、海底で何かうごめくものを発見すると、そのものが何であるかを確認しようとする行動に出る。水中撮影のときに彼らの目の前で自分の指先を動かして見せることも多いのだが、そんなときはスーッと寄ってきて、それが喰えるものなのかどうかのみきわめをしているようにも見えた。理由はどうあれ、とりあえず確認に来るところは好奇心の強いことの現われであろうし、確認してから喰うというところは慎重な性格の持ち主であることなのだろう(ちなみに、他のサカナの情報として、カンパチの幼魚は指先をいきなり吸い込むし、水槽で飼われていたヒラメに指先を喰われて大怪我したという事例もあるほど)。 さらに、カレイは彼らが確認しようとするときは目をこらしてその対象を凝視。その行動を見ている限りは、どうも視力的に優れているようには思えない。そう思える理由は、なんか強い近視の人が本を読むような見方に良く似ているからだ。 そういったことから考えると、カレイは好奇心を刺激すると同時に、視力の劣っている目にも視覚として捉えさせる意味でも派手な仕掛けが必要であるだろうし、じっくり喰わせるテクニックも必要なのだろう。 |