イシダイ。鯛と名の付くサカナだが、残念ながら鯛の仲間ではない。
しかし、その威風堂々とした姿はさすがに立派であり、磯の王者と呼ばれるほどである。
そんなイシダイが幻のサカナと呼ばれるようになって久しい。だが、本当に幻のサカナなのであろうか(?)。ボクが潜ってみている限りでは、決して幻のサカナではなく、いるところにはいるのだ。
こんな話をすると思い出すことがある。もう5〜6年前の話になるが、本州の北端ともいえる津軽半島・竜飛崎を潜ったときのこと。手のひら級のイシダイの幼魚が、それこそ何万・何百万尾の数で群がっている、という異様とも思えるシーンを目の当たりにした。しかも、ここがほぼイシダイの分布域の最北端に位置していることが、さらに疑問を深めた。これだけの数の幼魚が育てば、津軽半島や近隣の下北半島で良型のイシダイ成魚が釣れてもおかしくないし、それこそ津軽海峡を渡った北海道南部で爆釣の話があっても不思議ではない。 ところが実際には、年間の釣果を調べても極めて稀にしか釣れた(!)、という話しか聞かないということは、この幼魚たちがこの辺りの海域できちんと育っているとは考えにくい。恐らく、このとき目撃したおびただしい数のイシダイ幼魚の大群は、もっと南の海で生まれたものが対馬暖流に乗って北上し、ここまで流されたと考えるのが妥当であろう。もちろん、生まれた個体全部がここまで流される程のん気な話ではないはずで、隠岐や能登半島、佐渡島など、途中で居ついているものはかなりの数でいるはずである。 では、この津軽半島で見た大群の運命はというと、ごくわずかは生き残れるだろうが、その大半は冬になって水温が低下すると共に残念ながら死滅してしまっているのだろう。 イシダイ師からしてみれば、何とも居た堪れない話である。 ただ、海というのは、このような果てしなく無駄のような事実の元に成り立っているワケで、これだけの無駄な死滅があるということは、イシダイが決して幻ではないという証でもあるのだ。 |
誠に申し訳ないが、場所はあきらかにできない。 関東エリアのとある場所である。そこには、60〜70cm級のイシダイが数尾棲んでいる。さすがに、このクラスの編隊行動は見応えがある。 ボクはこのエリアを見つけて以来、イシダイの捕食行動を観察する場所と決め、そこで水中観察を定期的に続けている。 面白いのは、イシダイはエサ取りをあまり気にしないことである。よく本命が近くにいるとエサ取りを追い払うためにエサが残るという話だが、かなりエサ取りがゴチャゴチャといる中でエサを捕食する。ただ、エサ取りもイシダイがいるときは少し遠慮が見られる。何となく彼らにも道義があるように感じられるのだ。そこで堂々とイシダイはエサを喰い、そのおこぼれをカワハギやウマヅラハギ、キタマクラ、スズメダイといったエサ取りの定番のサカナたちが頂くという構図だ。 一度カワハギが執拗にイシダイのエサを突っつこうとすると、そのイシダイは歯をむき出してそのカワハギを威嚇した。 |
また、最近のイシダイ釣りで注目を集めているガンガゼについても、面白い行動が見られた。 ガンガゼとは、棘の長いタイプのウニ。その棘には毒があり、またヤジリのような返しが入っていて、棘が刺さると抜けないような構造になっている。そんなガンガゼをどうやって喰うのか(?)、ボクにとってもものすごく関心のあることだった。 イシダイは、まず最初にガンガゼに突進した。岩に張り付いていたガンガゼは、このイシダイの体当たりで岩から剥がされた。だが、イシダイの代償も大きかった。口の周りには数本の棘が刺さり、まるでネズミのひげのようになっていた。サカナには痛覚はないと言われるが、イシダイにとってはどうも痛いのか不快のようであった。 この失敗を悟ったイシダイは、次からはかなり賢い行動をとった。まるでカワハギが砂の中に隠れているエサを捕食する際のように、口に含んだ海水をガンガゼに強く吹きかけたのだ。ガンガゼは岩から剥がれて、コロンと裏返し(!)。その瞬間を見逃さず、イシダイはガンガゼの急所である裏側を粉砕。棘をまったく気にすることなく中身をタイらげてしまった。 イシダイは、極めて学習能力の高いサカナ。だから水族館などでも芸を仕込まれたりするのだろう。 イシダイ釣りの難しさと奥深さの秘密は、このイシダイの学習能力の高さにありそうだ。 |
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