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1.王者の風格と謎多き生態!

人間社会でも、イケメン俳優がもてはやされますが、サカナの世界でも釣り師にとって、見てくれは大いに影響するようです。特にイシダイは、その姿かたちに威厳があり、サカナの中で王者を選ぶとすると、ベスト5の中に必ず入ってくるでしょう。

また、イシダイ釣りの世界では、なかなか釣れない幻の大物釣りというイメージが強く知れ渡ったりもしています。でも、実際に海に潜ってみると、信じられないほどの大物がごくごく近場でいくつも見られ、けっしてイシダイの数が激減したという理由で幻のサカナになっているわけではなさそうです。

さて、磯の王者イシダイはどんなサカナなのか、いくつもの観察例を挙げてみることにしましょう。

学習能力に長ける賢いサカナ

水族館の展示で、イシダイやイシガキダイは、輪をくぐったり、おみくじをひいてきたりという芸をするサカナとして知られています。これは種明かしをしてしまうと、エサを使って訓練し、上手にできる個体を展示用に使っています。

ですが、この話は裏を返せば、イシダイは学習能力に長けていて、これをこうするとこうなるということを理解できるサカナということになります。つまり、あやしいエサ(ワイヤーのついたおいしそうなエサ)を喰ったら、強い力で引っ張られたという経験を一度でもしてしまうと、それに対しては強い警戒心を持つことになります。これは釣り師にとっては、手ごわい話ですね。

実際に見た鋭い学習能力という点では、次のようなことがあります。ボクがとある東京近郊のある海を潜っていたときのこと。そこにはガンガゼ(ウニの仲間、棘が鋭く、しかも長い。おまけに棘に毒がある)が岩の間に山ほど入っていました。ガンガゼは基本的には食用にならず、釣りのエサとして使われています。そこに1尾のあきらかに60cmオーバーの大きなイシダイが現れました。ボクは、もしかしたらエサを喰う瞬間が見られるかもしれないと思い、ガンガゼをひとつ、岩の間から取り出して、岩の平らな部分に置いてみました。

すると想像以上の展開がそこにありました。そのイシダイは、身を翻したと思ったら、いきなりそのガンガゼにアタック。ガンガゼも長い棘をイシダイの方向に向けました。イシダイは、そのまま突っ込んだので、口の周囲に棘が6〜7本折れた状態で刺さっていました。その姿は、まるで漫画に描くネズミのひげのようでした。サカナに痛点はないと言われていますが、あきらかに刺さったままの棘を不快に思っているような感じです。毒があるので、それなりに痛かったのかもしれません。

ところが次のアタックには、賢い戦術が使われました。再び突進したので、また同じ戦法でやるのかと思いきや、直前で急に止まり、口から強い水流をガンガゼに向かって吹きかけたのです。まるでカワハギが砂の中のエサを掘り出すのと同じ方法です。ガンガゼは全神経をピリピリとさせて、イシダイの方向に棘を向かせたのですが、完全に肩透かし。さらに平らな岩の上で、棘で支えることができなかったためなのか、イシダイの水流に負けてコロリと裏返し。イシダイは、その瞬間を見逃しません。棘のない側であるガンガセの腹が見えた瞬間、イシダイは鋭い一撃。ガンガゼは腹の奥まで喰われていました。これは、ガンガゼをどうしたら痛い思いをせずに喰えるかを学習した結果の行動であり、とても賢いサカナであることの証明でもあるはずです。

産卵期は6月(関東地方)

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シマダイとか、サンバソウと呼ばれる幼魚・若魚は、日本各地で見られ、群れでいることも多いです。これだけ多くの幼魚・若魚がいるということは、それなりに成魚も多くいるという証拠でしょう。

産卵期は、関東周辺では6月ころと見られます。5月下旬ぐらいになると、関東周辺の海はかなり濁ります。濁りの原因は、おそらくプランクトンが大増殖するためだと考えられます。濁れば産んだ卵も濁りにまぎれて、他のサカナに喰われる確率は減ります。また、卵からハッチアウトしてきた仔魚もエサには困らないのかもしれません。この時期に、産卵予定場所に成熟したオスとメスが集まってきます。成魚といっても、老成しているものもいれば、まだ若い成魚もいます。とにかく見たこともない数のイシダイがある根に集まります。日中の行動を観察すると、オスがメスを追いかける感じです。ここに集まるイシダイは、メスの方が一般的にカラダも大きく、しかも卵が入っているためか太っています。オスはカラダをぶつけたり、突っついたりして産卵を促すような行動をとっています。

ここから先の行動はボクも未確認なのですが、その時期の大潮周辺の夜間に産卵が行なわれるようです。産卵が終わってしまうと、それまではとてつもない数のイシダイがいたのに、ほとんどまばらにしか見られなくなってしまいます。いったいそれまでどこにいて、産卵時期にどうやってそこに集結して、終わったらどこへ行ってしまうのでしょう。実に不思議な話です。

イシダイはエサ盗りを追い払わない

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イソッペとよばれるショウジンガニは、イシダイの好物のひとつ。脚をもいだエサを置いておいたら、いきなりガブリッと喰らいつき、くわえたと思ったら、バリバリと噛み砕いて喰ってしまいました。
イシダイは喰う時にエサ盗りを追い払うと言われますが、実際には積極的な追い払い行動は取りません。むしろ、エサ盗りサイドが遠慮して、イシダイにエサ場を明け渡している。そんなニュアンスです。

よく、イシダイの本命が来ると、それまで盛んにエサ盗りがエサを盗っていたのに、エサが盗られなくなると言われます。たしかに本命が釣れる直前辺りから、エサは残るようになります。釣り師はほぼ全員、これはイシダイがエサ盗りを追い払うためだと言います。

これもボクが実際の海での観察からお話しすると、イシダイはエサ盗りを積極的に追い払うようなことはしないようです。どちらかというとエサ盗りとエサ場を共有するような感じです。しかし、やはり大きなイシダイが寄ってくると、エサ盗りの方がその場をさっと明け渡すような行動を取ります。このことが、おそらく釣り糸を通してすべてをイメージしている釣り師にとっては、エサ盗りをイシダイが追い払っていると感じられるのでしょう。ただ中には「やんちゃ」なエサ盗りもいて、イシダイの隙をついてエサを喰おうとする謀反者がいます。それはたいていカワハギかキタマクラなのですが、そんなときはさすがにイシダイも怒りをあらわにします。ちょうど犬が怒る時に上唇がめくれるように、イシダイも嘴を露出させて、その相手に噛み付くような行動を取ります。そんなとき、そのちょっかいをだしたエサ盗りは、大慌てで逃げますが、相手が深追いしないことを知っていて、またその近くに潜伏しています。

イシダイもエサによって喰い方は異なります。ガンガゼは前述のように裏返しにして一撃。カニはくわえてからバリバリと噛み砕きます。サザエは、くわえてから引っ張るようにして喰っていました。エサによってアタリの出方も違うはずで、アワセのタイミングも違うはずです。

学習能力が高く、またエサによって喰い方も異なれば、アワセのタイミングも変わる。これだけでも十分に釣り上げるのがきわめて難しいサカナであることが理解できるでしょう。

※釣魚水中生態学入門より移設