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画像 カジキとスピニングタックルで渡り合うということ

2010年、下田のJIBT(JAPAN INTERNATIONAL BILLFISH TOURNAMENT)では当時新登場の『SALTIGA 5000』リールを使用した。このときは4時間に及ぶ戦いが繰り広げられた。結果は痛恨のラインブレイクであったが、素晴らしいカジキとの戦いを展開することができた。

そもそも通常カジキのトローリングで広く使われているのは両軸タックル。もともとのリールの構造からパワーゲームに向いている。しかし我々『DAIWA Salt Water Team+PREDATOR』は敢えてスピニングでのゲームを展開している。普通で考えたら分が悪いスピニングを使うことの何よりも大きな理由は、チームのメンバーであるDAIWA開発陣の「大型魚と互角にやりあえる程のスピニングを開発し、実際に釣って検証する。」という熱い思いに打たれたからである。魚類で最も速く泳ぐとも言われ、かつ時には数百kgにもなるカジキを相手に実験をしようというのだ。つまり、車におけるF1やパリダカに挑むようなものだ。私は、この思いを感じたからには、応えてあげたいと強く感じることとなった。
スピニングが分が悪いといっても、全くメリットがないわけではない。スピニングを使うメリットは、まずドラグの性能をフルに活用できることで細いラインを使うことができる。これは大会において大きなメリットになる。また、より細いラインで魚と勝負するというIGFAの主旨にも沿う。

そして翌8月の御前崎ビルフィッシュトーナメント(以下御前崎BT)にはSALTIGA5000と共に『SALTIGA 62S 2/3ロッド』(ワークス・モデル)のタックルで参加。メインラインは下巻にPE30lbラインを300メートル、上巻にはナイロン・モノフィラライン30lbを130メートル巻き、このシステムでカジキに挑んだ。JIBTでのラインブレイクは、PEラインとナイロンモノフィラとの結線部分の摩耗を危惧するあまり、ナイロンラインだけのファイトに集中した結果、ラインに撚り(ヨリ)が入り、強度低下を招いてしまったことが敗因であった。決してラインが悪いのでは無く、ファイト時のライン使用方法に問題があったのである。その反省点を胸に私たちは御前崎BTに挑んだ。

画像大会1日目

御前崎は晴れて凪、カジキ釣りには絶好のコンディションだった。大きなカジキを掛けて、30lbラインクラスでの記録を狙う事。それが私たちの願いであった。スタート前は、いつも緊張感と期待感で胸躍る。そしてスタートラインへ。もちろん目指すは『金洲』。普段から遊魚船《ミヨシマル》で釣行している場所だ。ポイントは全てGPSへ入力済みだ。スタート後、『カド根』の南側から水色が良くなって来た。「ここからかな?」と思ったが、「大物は?」との思いも脳裏をよぎり、迷わず『金洲南』へ舵を向けた。

その日のルアーも"B/B"を使用した。私がカジキを釣る上で信用を置いているルアーだ。このルアーはそれまでの各大会で、他のチームを含め非常に良い成績を納めている。

リーダーは120号(スーパーソフト)5メートル。 ワインドオンリーダーは、ダイニーマ70号を2メートル。アルミスリーブ、スーパーロックの中に瞬間接着剤を流し、リーダー結線強度は100%を保持する。これはマグロ延縄と同じやり方で、スリーブも当然、延縄用を使用する。フックは、自慢の特製フックを使用する。ダブルフックを180°で全て固めてバート・ミラー(Bart Miller氏)の教えを厳守する。JIBT、そして鳥羽大会でも100%のフックアップ率で、全く不安は無かった。

トーナメントの朝ポイントに到着し、最初のルアーを流すのは、心ときめく瞬間である。しかし急いでルアーを入れるのは禁物だ。1本1本丁寧に、フックのワイヤーロック、ナイロンリーダーのロック等、全てを再確認しながら流したい。早くルアーを入れたいクルーの気持ちは分かるが、絶対に焦りは禁物なのだ。そして波間に美味しそうに泳ぐ、魚やイカをイメージして、最高の場所にルアーをセットする。時には10センチ単位でルアーの位置を調整する事もある。

私は素引きが好きで、ルアーの手前には何も付けない。華麗にルアーを泳がす事が出来れば、それで十分だと考えている。

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この日、『DAIWA Salt Water Team+PREDATOR』は、朝からノーヒット。大物は金洲南に居ると信じ、私たちはずっとその200メーターラインを攻めていた。

その状況下、他艇のヒットコールが聞こえた。GPSを見るとイカ場の東側の『カド根』。大会では、クリーンヒットでポイントを稼ぐ事が勝利に繋がるのだが、何としても高ポイントの大物を狙いたい。しかし、その心とは裏腹に、ヒットのあった方向にボートを向けていた。しかし大物に対する期待は捨てがたく、優柔不断に『カド根』 と金洲の北側を行ったり来たりしていた。「これでは、ダメだ!」釣れない時の迷いは絶対禁物である。色々と考え、金洲西北のイカ場に行こうと決心し、流していたルアーを上げて全速で直行。

この日は、イカ釣り船が多数見えた。カジキはイカが大好物で、釣れているイカを横取りする事もある。私は、秘密のルアー(自作したルアーヘッド+御前崎漁師御用達のイカ)をショットガンの6波目に入れた。そしてルアーを波に乗せ、いつものように「ヒラヒラ」と泳がせた。

そのイカルアーをショットガンに入れ、他のルアーを選んでいると「ヒット!」。思った通り、そのイカに喰い付いた。 後ろで跳ねるカジキは、40kgクラス。難なく寄せてタグを打ち、永山さんがビルを掴んでフックを外し、マカジキをT&R(タグ&リリース)!そして、「もう一本獲って優勝だ!」と、マカジキが喰ったイカルアーを検量提出のために取り外し、同型の自作ルアーを流した。

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画像その後、とんでもない事が・・・

“ストップフィッシング5分前”と、大会本部より無線が入った。最後のチャンス。私は無線機のマイクを握って「もう一発ヒットしてくれ!」と念じた。

ストップフィッシング1分前。TOSHIが後ろを見ながら、私の横で呟いた。「ヒレ見えた!」 と、私は振り向く間も無くカジキが来ていると思い、エンジンの回転を上げてルアーを動かし、誘いを掛けた。

すると次の瞬間 「ヒットー!」 の大声が上がった。私は、握っていたマイクのスイッチを入れ 「PREDATOR ヒットー!」とブレイク・コール。ストップフィッシグ30秒前の出来事だった。そして本部艇からヒット確認の無線が入った。

まさに奇跡のヒット!

跳ねているカジキは、凄くデカイ。喰ったのは、交換して入れた同型イカルアーだった。他のルアー回収は45秒で終わり、アングラーの永山さんのリールを見ると殆どラインが無い。カジキはぶっ飛び、15秒で100メートルのラインがスプールから消えた。

息子のヨッシーは、アッサンで何とか対応しようと必死だったが、これでは間に合わないと見越し、私は大声で叫んだ。「ヨッシー!バウ・ファーストやろう!」

そして、アウトリガーに飛び付き、リガーを上げ 「永山さんバウに行ってー!」と叫んだ。

この日の海は凪。ラインが凄い勢いで出ているロッドを持ちながら、永山さんはバウに立った。ヨッシーに「走れー!走れー!」と大声で伝えると、ボートは黒い煙を上げて猛然と走り出す。「永山さん 巻け!巻け!」と指示。残り少なかったラインは、何とか切られずに済んだ。

それまでの幾つかの同じ状況下での経験から、直ぐ行動に移らなければ間に合わない。そしてナイロンラインまで、何とか巻き戻す事が出来た。その後アングラーの永山さんはコクピットへ移動し、ファイトを再開。

ここからが死闘の始まり

ラインは30〜300メートルの間を何度も何度も行ったり来たり。永山さんは6kgのドラグで懸命にプレッシャーを掛けるが、カジキは一向に弱らず何ともならない。これがスピニングカジキだ…。

スピニングラックルは細いラインが使える。しかしラインが細いということは、過度なプレッシャーを一度に掛けることは禁物。そもそも30lbラインはやり取りの最中に手で触れるだけで、最悪切れてしまうくらい繊細だ。しかし、我々はSALTIGAに搭載されているドラグの性能そして耐久性に、これまでの戦いから信頼を寄せていた。加えてSALTIGAロッドの持つ粘りもある。やりとりの中でカジキを弱らせていく。

気になるのはラインに撚りが入り、ライン強度が落ちる事だ。この解決方法を、ダイワチームのBossが提案した。「ナイロンだけのやり取りはせず、PEも出してファイトする。そうすればナイロンに入った撚れをPEラインに移す事が出来るかも…」これが見事的中。そしてダイワチームの野上さんは、ラインのフリクションを低減するために、ラインを出す度にラインとリール、それにロッドガイドに絶妙のタイミングで水を掛け続けた。

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ファイトは8時間に及んだ。まさかこんなに長いファイトになるとは想像しておらず、ボートには飲み水だけで、食べ物は全て無くなった。腹が減って、空腹を堪えながらのファイトは辛い…。御前崎沖をずっとカジキに引っ張られ、ベタ凪ぎの月夜の下で沖泊りまで覚悟しなければならないか?との思いの中、何度目かのリーダーを取るチャンスが訪れた。野上さんと一緒にリーダーを取り、カジキを浮かせた瞬間、カジキは大きく海面を叩いた。そしてナイロンリーダーのど真ん中でリーダーブレイク!そこで全てが終わってしまった。

御前崎沖での果てしないゲームは、あっけない幕切れとなった。敗北には違いなかったが、なにやら爽やかな満足感に似た感情も船上には漂っていた。8時間にも及ぶハーネス無しのファイト!それに耐えた永山さんの超人的な体力と気力は、“凄い”の一言に尽きる。 そしてスピニングタックルも良く耐えたものだ。

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このカジキは何としても獲りたかったが、どうにもならなかった自分が情けない。無理せず時間を掛けていれば…と、今でもカジキが船縁に浮いた姿を思い出し、ため息を吐く事がある。そして、ある時は夢を見て、また後悔の念。眠れぬ日々は続く… 情けない…。永山さんとも何度も電話やメールで論じたが、結論は Next!

「次は 絶対に 獲る!」

画像更なる期待

この記事が公開される時期(2011年9月)にSALTIGAの大型魚に対応するタックルが発売になると聞く。残念ながら発売前に参加した2011年のJIBT、御前崎BTともに『DAIWA Salt Water Team+PREDATOR』はノーフィッシュ。2010年の雪辱を発売になる大型タックルで晴らそうとしたが、相手が現れなかった。台風の影響など、厳しい状況はあったものの、くやしい・・・しかしリール・ロッドともにラインキャパも十分、パワーも十分なタックルが発売となった。そして、やはりこう思う「次は 絶対に 獲る!」いや「獲れる!」

また釣りに行きたくなってきた。

※写真は共に戦ったチームクルー。

画像筆者紹介
青島 常昌(あおしま つねまさ)

『DAIWA Salt Water Team+PREDATOR』キャプテン。

カジキ釣りをこよなく愛する海の男。チームではキャプテンとしてクルーを指揮するとともに、ランディング時のリーダーマンも兼務する。普段は遊漁船の船長として、常に海を見続けている。