冬磯に冴え渡る粘りと腰 銀狼インプレッション【前編】 山口県/下松

厳寒期の瀬戸内。磯に下り立った名手・木村公治さんは、2本の新たな「銀狼」を手にしていた。「黒竿」と呼ばれるプロトとは違い、艶やかな塗装が施された完成モデル。満を持して実戦に投入である。今までの銀狼とは何が違うのか。その特性とは何か。今回からは2回に分け、木村さんのインプレッション釣行をレポートしよう。

 

 

 

 

 

 

徐々に明らかになる

「銀狼 冴」のポテンシャル。

 

 キンと引き締まった空気。肌を刺すかのような風。寒気に覆われた瀬戸内の海を船は進み、ガケ下から帽子のツバのように張り出した低い磯に舳先を付けた。「夕陽岬の下」という場所らしい。笠戸島の地磯である。「途中で様子を見に来るけぇ。何かあったら携帯に電話してくんさい」と言い残し、栄勇丸渡船(☎=090-1016-5255)の船長は港に戻っていった。

 「直前の寒波で水温が下がり、チヌの活性も落ちていると思うんですよ。ここはわりと実績のある磯なのですが、実際にやってみないと様子はわかりませんね」

 ちょうどこの日は動画撮影も兼ねた釣行である。黒鯛(チヌ)のタックルや用品は、乗っ込み期の前に合わせて発売となるので、プロモーション用のロケは決まって冬場になる。盛期には特大のスカリに入りきらないほどの黒鯛(チヌ)を釣る木村さんであるが、さすがこの時期は釣り場の選択に自信が持てない様子である。

 木村さんがロッドケースから取り出したのは、この秋に発売になったばかりの「銀狼冴」の1号53。「銀狼王牙AGS」「銀狼」に次ぐ第三の銀狼は手頃な価格帯に位置するアイテムだ。いわゆるミドルクラスの竿は、ビギナー層からシニアアングラーまでが手にするものだけに、ハイエンドモデルとはまた違った基準で良し悪しが判断される難しさがある。不慣れな人が扱っても破損しづらいタフさは必須。それでいて場数を踏んだベテランが振っても納得するだけの性能と、何より黒鯛(チヌ)にとっての最重要ファクターである“楽しさ”を備えていなければならない。

 「銀狼 冴」とはどんな竿であるのか。木村さんはこの釣行に先立ち、五島列島やプライベート釣行でプロトモデルを使い込んでいた。氏はそのときの印象をこう語る。

 「ひと言でいうなら“よく曲がる竿”です。バトルカップの予選で『銀狼冴』の0.6号を使って1尾目に53cmを掛けたのですが、ギュッと絞り上げても穂先が視界の中にあるほど柔軟なんです。ただグッと曲げ込んでも突っ張らず、しっかりと粘りを残しているんですよ。曲がりながらも操作性を失なわないのが見事です。X45の恩恵でネジレが抑えられているので、どの角度からでも絞り上げられますよ」

 上級機種の廉価版ではなく、黒鯛(チヌ)竿として素晴らしい竿である。木村さんはおそらくこう言いたかったのであろう。さて、その『銀狼冴』は、どのような曲がりを見せてくれるのであろうか。

 

 五島の磯で黒鯛(チヌ)を掛ける。「銀狼 冴」はよく曲がり、ゆったりとしたストロークの中で粘りを発揮する。

 大型を獲れるパワーと粘りを備えたうえで、黒鯛(チヌ)の引きを存分に楽しませてくれる竿。これが「銀狼 冴」である。

 

 

 

寒気に包まれた下松の磯で

渋い黒鯛(チヌ)に挑む!

 

 首から提げたカメラが冷たく感じられるほどの寒さである。釣行の直前に3日間ほど大雨が降り、水温もガクッと低下していた。木村さんがセットした仕掛けは、『タフロングレイトZカスタム』1.25号を竿1本ほどの長さに取り、『銀狼遠投Ⅱ』のLL-3Bをセットした遊動スタイル。仕掛けがなじんだところでゆっくりウキを沈め、表層から底層までをくまなく探る仕掛けで、どちらかといえば黒鯛(チヌ)に上から落ちてくるエサを見せる攻めに向いている。

 まずは釣り座から10mほど沖のカケアガリにポイントを設定して釣り始める。案の定エサ取りは少ないようだ。木村さんの表情は晴れない。それはそうだ。盛期であれば40cm後半の良型が20尾、30尾と釣れる場所なのである。そうこうしながらも、木村さんは何かを感じ取っているようだ。

 「よし食った!」

 竿出しから1時間は経過していた。木村さんとしては遅いファーストヒットである。「つの字」になって黒鯛(チヌ)の引きをいなす『銀狼 冴』。その曲がりからして相手はかなりの大型と思われるが、1号ロッドのパワーをもってすれば手を焼くサイズにはほど遠い。

 魚の走りが止まった。さぁここからが反撃だ。しかしどうしたことか、何の前触れもなく穂先が跳ね上がってしまった。痛恨のハリ外れである。

 「魚の気配はあったんです。カケアガリ付近で狙い通り食わせたまではよかったんですが、どうもチヌが下を向いてエサをついばんでいるような感じなんですよ。魚が下を向いているときにサシエを食わせると、ハリ先が歯に乗りやすいんです。活性が高ければ一気にサシエを吸い込んで喉の奥にハリが掛かるのですが、今日のチヌはそこまでの活性はないし、エサを食っても反転して走らない。ちょっと厄介だなぁ……」

 少し考えた木村さんは、バッグの中から何かを取り出した。『ベガスティック タフ』。自立式の棒ウキである。

 「最近は棒ウキやカン付きウキも積極的に使うようにしているんですよ。今日のようにチヌがエサを食って走らないときはアタリが小さいので、棒ウキで数cmのアタリを取ってやろうと思いまして……(笑)」

 さて、結果やいかに……。

 

 笠戸島の地磯である「夕陽岬の下」。木村さん自身も過去に何度かよい思いをした磯であるが、この日は水温が低下して黒鯛(チヌ)の活性も低かった。

 たっぷりとコマセを入れた後にゆっくりと仕掛けをセットする。この数分間は戦略を練ると同時に集中力を高める大切な時間だ。

 綺麗な塗装が施された真新しい『銀狼 冴』。試作の段階から開発に携わった木村さんであるが、完成品を振るのはこの日が初めてなのだとか。

  リールはもちろん『銀狼LBD』。ハンドル1回転で100cm巻けるハイギアが搭載されているのはトーナメントインパルトのSH仕様と同じだが、これらのハンドル長が55mmに対し、『銀狼LBD』はクイックな巻き上げと「巻き感度」を重視して50mmのマシンカットハンドルが採用されている。

 朝イチにセットしたのは『銀狼遠投Ⅱ』のLL-3Bを用いた遊動仕掛け。木村さんが昔から得意とする「海中でウキを泳がせる仕掛け」である。

 

 

 

底のエサをついばむ黒鯛(チヌ)を

自立棒ウキで攻略!

 

 アタリは遠かった。黙々とコマセを撒き、粛々と仕掛けを打ち返す時間だけが過ぎていく。見回りの渡船が来たところで磯替わりをしましょうか、そんな話が出始めた頃であった。内湾の鏡のような海面に、スッとオレンジ色のトップが吸い込まれていったのである。

 「先の魚ほどの重量感はないが、ゴツッ、ゴツッと首を振る動きは紛れもなく黒鯛(チヌ)である。海面に姿を見せたのは、まだ表情にあどけなさが残るカイズクラスであった。玉網で掬い取ると、ハリが口からポロッと外れた。食い込みが浅いのである。

 「でもどうにか1尾取れたので安心しました。やっぱりチヌの活性が低いんですねぇ……」

 とはいいながらも、「銀狼 冴」の美しい曲がりは堪能できた。竿は曲がるからこそ弾力を発揮するし、魚の引きを味わえる。美しい曲がりは見た目だけでなく、ブランクスが均等に曲がって“全体が仕事をしている”という証左でもあるのだ。柔軟でありながら粘る。そしてパワーもある。

 『銀狼王牙AGS』には低樹脂のSVFカーボン素材が用いられているのに対し、『銀狼 冴』にはやや樹脂量の多いHFVカーボンを採用している。軽さやキレ、反発力はSVFカーボンのほうが上であるはずだし、実際そうなのであるが、HVFにはHVFの特性があり、それを生かす設計がある。もっさりしても仕方ない反発力も、うまく使えば豊かな曲がりとストロークを生み出せる。『銀狼王牙AGS』の大きく曲がり込んでからスッと起き上がるキレは真似できなくても、負荷が掛かるほどに粘り、魚の誘導性を確保しながらゆったりと曲がりを押し戻すという、ある意味SVFでは難しい調子を作り出すこともできるのである。

 素材をはじめとするコスト的な制限を逆手に取り、独自の調子を作り出した。これが「銀狼冴」という竿だ。曲がりの抜けが早いハイエンドモデルに比べ、ゆったりと曲がってゆったりと曲がりが抜ける「銀狼 冴」は、振り調子、掛け調子ともにパワーのミートポイントが広い。だから軽い小粒ウキから重量級の自立棒ウキまで幅広く対応する。そして、魚を掛けてからも、最も粘りを発揮するロッド角をつかみやすい。木村さんの「上級機種の廉価版ではなく、黒鯛(チヌ)竿として素晴らしい竿」という言葉の意味がわかったような気がした次第である。

 その後も、魚の活性は今ひとつパッとしない状態が続き、木村さんの判断で磯替わりすることにした。ここで「銀狼 冴」はロッドケースに仕舞い、次の磯では新たなる「武器」のお出ましとなる。この続きは次回で詳しくレポートすることにしよう。

 

 痛恨のハリ外れの後に木村さんが取り出したのは『ベガスティック タフ』。下を向いてエサを食って動かない黒鯛(チヌ)に対し、数cmの小アタリを取るための秘策だ。

 長い沈黙を破って美しい弧を描く『銀狼冴』。大きくゆったりとした曲がりの中で発揮される「でしゃばらない粘り」は、黒鯛(チヌ)独特の重厚な引きを余すところなく楽しませてくれる。

 「どうにか1尾釣れてくれました!」と安堵の笑みを浮かべる木村さん。黒鯛(チヌ)の食いは浅く、玉網入れと同時にハリが外れてしまった。

 木村さんは前日の夜にコマセを仕込んで水分をなじませておく。ゴミはこのときにまとめ、釣り場へは極力持ち込まない。 

 

  

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