誘って抱かせる最先端のヤエン釣法を見た!和歌山県/みなべ

 アオリイカ。それは万人を魅了するターゲットである。とりわけ磯釣りは伝統と様式美を重んじる向きが目立つジャンルであるが、生粋のグレ師、黒鯛師を自負していても、エサ取りの外側から褐色の浮遊物体が近づいてくると、ついソワソワしてしまう人がなんと多いことか。自分の気持ちにウソをついても仕方なかろう。なぜ危険を冒してまで山に登るのかと問われた登山家が「そこに山があるから」と答えたように、そこにプリップリのアオリイカがいるのであれば、そして少しでもソイツに心を揺さぶられるのであれば、素直に自分の気持ちに従い、心ゆくまで狙ってみるべきなのである。アジを泳がせた穂先がズコンと持ち込まれたときのスリルを味わったあなたは思うはずだ。「こんなに楽しい釣りがあったのか」と……。

 

 

本場のアオリイカ釣りを見てみたい。

ヤエン発祥の地・和歌山へGO!

 

 重厚な引きと極上の食味。アジをものの数分で粉砕するどう猛さはよく知られるところだが、足を束ねて静かに獲物へ近づく姿はどことなくユーモラスだ。本人としては流れ藻か何かに化けているつもりなのだろうが、磯の上から見れば「お前、どう見たってイカだぞ」と突っ込みたくなるほどのスキが満載で、思わずプッと吹き出してしまうこともしばしばだ。釣って楽しく、食べて美味しいターゲットはほかにもいるが、アオリイカにはそれプラスαの魅力があるように思えてならない。

 そんな誰からも愛されるアオリイカであるから、メジナ&黒鯛狙いの上物師や底物師のロッドケースにエギングロッドがさりげなく入っていても、近年ではなんら違和感を覚えなくなった。しかしそれはあくまで片手間に狙うだけのこと。どんな釣りにおいても、本当に楽しいのは“釣れた”が“釣った”に変わったときの達成感にあると言われるように、“片手間”からもう一歩突っ込んだ世界にさらなるおもしろさが存在するはずなのである。

 マニアックなアオリイカ釣りの世界へドップリとはまり込んでみたい。それも本場のヤエン釣法を目の前で見てみたい。そんな今回は、ヤエン釣法の先駆者である岡啓太郎さんの釣行に同行させていただくことになった。助っ人として駆けつけてくれたのは井戸敏充さん。氏もかつて年間300日もアジを泳がせたという強者であり、この顔ぶれを見ただけで、クーラーボックスを持ってこなかったことを大いに後悔した。

 向かうはヤエン発祥の地である和歌山。夜明け前には、みなべ町のわだま渡船さん(☎090-9048-4889)に到着した。ヤエン師にとって生きアジ常備は実にうれしいところだ。

 岡さんは誰とでもすぐに打ち解けるフランクな性格で、車中での会話も初対面であることを忘れてしまうほどだった。口から出る言葉のすべてがポジティブで、とにかく自分自身の気持ちと集中力を高めるのが上手い人なのである。渡船に乗り込む頃にはマックスハイテンションだ。「今日はええのを釣りたいからな。やるでぇ!」

 

“釣れた”が“釣った”に変わったときの達成感こそが真の釣りの楽しみ。アオリイカ釣りも一歩踏み込むことでさらなるおもしろさを体験できるはず。

 

 

信仰の島でアジを泳がせる。

攻めのアオリ釣りは“フルタイム手持ち”

 

 渡船は港の正面に見える大きな島に舳先を付けた。「鹿島」という所らしい。読んで字の如く、島内には常陸の国(茨城県)の鹿島神宮から勧請したという鹿島大明神が祀られており、古くから神の島として崇められてきたそうだ。それこそ町のシンボルともいえる存在。みなべ町は本来「南部町」と書くが、鹿島と陸を合わせた景色が「3つの鍋」に見えることも地名の由来の一説であるのだとか(参考=みなべ観光協会WEB SITE)。

 島の周囲は荒々しい磯場であり、メジナ釣りならどこもヨダレの出そうなポイントである。しかし、岡さんが選んだのは「船着」。平たく言えば波止だ。しかしながら、周囲の地形は沈み根あり、砂地あり、藻場ありと変化に富んでおり、アオリ場としてはかなりの二枚目である。

 岡さんと井戸さんは手早くタックルをセット。この日の竿は「磯潮アオリトライアル50」、リールは新製品の「アオリトライアル2500BR」。ラインはフロロカーボンの「バトルゲーム ヤエンラインF」1.25号を使用した。

 「まぁ言うたらエントリークラスのセットやけど、ヤエン釣法に必要な機能はひととおり備えてるわな。イカがアジを放さんよう、穂先から穂持ちにかけてがしなやかに曲がる調子はまさにヤエン専用設計や。シャープな上物用の磯竿では張りが強すぎるんやね。リールもアオリクラッチやアタリクリックが付いてて、仕様は上級モデルと比べても見劣りせぇへん」

 そうこうしながら、1尾目のアジを投入。しばらく岡さんの釣りを観察していると、ボクが見慣れているヤエンの釣りと、少々違うことに気づいた。岡さんは竿をまったく置かないのである。竿掛けは一応セットしてあるものの、ここに竿を掛けたのはバッグにバナナとパンを取りに行ったときのみ。ボクの知っているヤエン釣法は、置き竿でのんびりアタリを待つスタイルがほとんどだった。岡さんの釣りは、右へ左へ竿を操り、ときに穂先を利かせてアジを躍らせたりと実に忙しいのである。

 「アジ任せではなかなか釣れへんということですわ。朝一番はイカがどこにおるかわからへんので、まずは広く探りたい。それも、自分の思ったコースを泳がせてね」

 まさにアユの泳がせ釣りと同じ感覚なのである。アジを右へ泳がせたいときは左からテンションを掛ける、左へ泳がせたいときはその逆から穂先を利かせる。アジが休んでしまうときはツイッと竿を煽って尻を叩く。これを繰り返し、エギングではまず届かない距離までアジを泳がせてしまうのである。

「泳がせているうちにアジがピピッと逃げる感触が竿を通して伝わりますね。これはアジが何らかの理由で怯えてるんです。まぁアオリに追われた可能性も高い。こういうときは穂先を利かせてアジを止めるとか、フラッシングと言うてアジにイレギュラーな動きを与えるんです。こうするとパッとアオリが抱いてくれることがありますね」

 アジのちょっとした変化を感じ取り、誘って抱かせる。このような「攻めの釣り」は、フルタイム手持ちで竿を操るからこそ可能なのだろう。

 

みなべのシンボルともいえる鹿島で竿を出す。「船着」はごらんのような波止で足場のよさはピカイチ。アオリイカの実績も高い。

 

タックルは「磯潮アオリトライアル50」と「アオリトライアル2500BR」のセット。エントリークラスながらヤエン釣法に必要な機能はすべて備えている。

 

アジを固定するハリは糸ヨレを防ぐサルカン付きがおすすめ。ラインは傷みやすい先端部分を4㎝ほど折り返して縒り合わせておく。テーパー状のゴムはヤエンの逆戻りを防ぐヤエンストッパー。

 

固定バリはゼイゴを縫うように刺すと外れにくい。アオリイカのタナが深いときはアジにフック付きのオモリを打つこともある。

 

いったんアジを投入したら岡さんはまず竿を置かない。竿を左右に倒してアジの泳ぐコースをコントロールし、反応のある箇所では穂先を利かせてフラッシングのアクションを加える。

 

 

どうしたことか最初の1パイが遠い。

大アオリよ、お前はどこにいる!?

 

 ところがしかし、アタリが遠いのである。岡さんが巧みな竿さばきでアジを泳がせるも、当のアジは皇居を1、2周ジョギングしてきたかのような清々しい顔で戻ってくるのだ。気持ちよく泳いでくれるのはよいが、多少はどこかでいじめられてくるようでないと、釣りとしては困ってしまうのである。そうこうしているうちに向かい風が強くなってきた。

 そんななか、井戸さんのリールからジーッとラインが引き出された。慣れた手つきで取り込んだのは800gほどとまずまずの型。いよいよ時合かと思いきや、それ以降は再びアタリが途絶えてしまった。

 「ホンマは、あそこを狙ってみたいんやけどなぁ……」

 ダイビングポイントの目印であるブイを指差して岡さんはそうつぶやいた。どうやらブイの下にはアオリイカが好んで着く沈み根があるらしい。しかし、この向かい風では竿を支えるのもやっとで、とてもではないがブイ近くにアジを投入できない。手前から泳がそうにもラインが風で大きくフケてしまい、岡さんの技術をもってしてもアジをコントロールできないのである。

 じれったい時間が過ぎていった。正面から海面をギラつかせていた太陽が、いつしか背後に回っていた。吹き付ける風の息を読む……。

 「抱いたでぇ〜」

 風が淀んだ一瞬をついて狙いのポイントへ滑り込ませたアジへ、根から離れなかった出不精アオリがようやく触腕を伸ばしたのである。一進一退の攻防。後方の高い位置で井戸さんが獲物の姿を確認した。「こら大きいですよ……」。

 十分に寄せてラインに角度が付いたところでヤエンを投入。さて最後の詰めだ……、と思った矢先、無情にも穂先が重量を失ってしまったのである。

 戻ってきたアジは、尻尾だけを残して見事に食い尽くされていた。アジの大きさに対し、アオリイカが大きすぎたのである。慎重にやり取りしすぎたのか。いや、取り急げばアジを放されていたかもしれない。納竿まであと1時間。岡さんへ掛ける言葉に困っていたところ、当の岡さんから例のポジティブ発言が飛んできた。

 「産卵期のアオリは絶対にペアでおる。すぐに抱くでぇ!」

 

井戸敏充さんがまずまずのアオリイカをキャッチした。多いときで年間300日も竿を出した猛者であり、やり取りから取り込みまでの動きにムダはなく、実に流麗だった。

 

強風の息を読んで狙いのポイントへアジを送り込み、ようやく大型を抱かせることに成功した。慎重かつ大胆にやり取りを繰り返したのだが……。

 

わずか数分でアジを食い尽くされてしまった。相手はどんな大物だったのだろうか。

 

 

ピンポイントでのフラッシングが功を奏す。

起死回生の良型をキャッチ!

 

 「やっぱり、反応があるのはあそこしかないな。それもごっつう狭い範囲や」

 もう岡さん迷いはなかった。的確にブイ付近のピンポイントへアジを泳がせていく。微かな泳ぎの変化に数回フラッシングを入れる。ここで再びズシンときたのである。

 大切な1パイである。ゆっくり、じっくりと間合いを詰めた。完全に腕の中のアジに心を奪われたアオリイカが海面下に姿を現した。これも見事な型だ。頃合いを見てヤエンを滑らせた。海中に黒煙が広がる。勝負あった!

 岡さんを散々手こずらせたそいつは、目検討で1.1〜1.2㎏はある良型。岡さんの高笑いが神の島に響き渡った。

 「エギングに比べ、生きたアジを泳がせるだけでもヤエンは有利や。でも、今日みたいにアオリのいるエリアが極端に狭かったり、乗りの悪い日にアジ任せの釣りをしても、ええ釣果は望めませんな。海をよく見てアオリの反応がある場所を見つけ、そこへ的確にアジを入れる術を身に付けたら釣果は飛躍的にアップするはずですわ」

 ヤエン釣法は生きエサに頼るのではなく、釣り人側から仕掛ける攻撃的な釣りだ。アジをなんとなく通すのではなく、ここぞという場所で思いっきり躍らせ、「さぁ抱け!」とアジに叫ばせる釣りなのである。こんな近代ヤエン釣法を実践する岡啓太郎さんは、やはりタダ者ではなかった。

 

産卵期のアオリイカはペアで行動する。狙いのポイントを絞り込み、すぐに大型を抱かせるあたりはさすが。慎重かつ大胆にイカを寄せ、ヤエンを投入する。

 

起死回生の一発は1㎏を優に超える良型。まさに技ありの1パイだ。ミスターポジティブ・岡啓太郎さんの高笑いが島中に響き渡った。

 

カテゴリ

2017年7月

            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31