磯釣りでも船釣りでも「エサ盗り」の存在は厄介である。この「エサ盗り」の筆頭に挙がるのは、やはり「キタマクラ」であろう。
アタリもなくエサを盗り、付けエサをきれいに食べてハリだけにしてしまう。それだけで済むならばまだ許せるのだが、付けエサの色に似せたハリの塗装を剥してしまったり、エサと一緒にハリスを噛んでハリスに傷つけたり、さらにひどいときにはミチ糸にひっかかっていたコマセを喰っているうちにミチ糸を切ってしまうことすらある。仕掛けを丸ごと失うばかりではなく、ミチ糸までが中途半端に短くなってしまって釣りそのものがやりにくくなってしまうことすらあるのだ。
このにっくき「エサ盗り大王」の「キタマクラ」。こいつの正体を知ることも大事なことである。
「北枕」。
まずこの名は凄い。食べたらこうなるという、フグの仲間でもここまでストレートなネーミングは類を見ない。さぞかし恐ろしい猛毒の持ち主かと思いきや、実は肉や卵巣は無毒。肝臓と腸には弱い毒がある程度。
つまり、毒としてはおそるに足らぬフグなのである。それにこのフグを食おうなんて気も起きない。
では、なぜこんな恐ろしい名前がついたのか。それはどうやら皮膚に強い毒があることから来ているようだ。キタマクラをつかまえてきて、水槽に入れると、皮膚からの毒で他のサカナがことごとく死んでしまう。皮膚から出る強い毒が水槽内を汚染してしまい、水槽内のサカナたちが皆この毒にやられてしまうのだ。
この様子を見て、このフグはとてつもない猛毒の持ち主であると言う印象がついてしまい、それがそのまま死ぬことを意味する「北枕」という名につながったようである。
ボクたちが、この「キタマクラ」を食べることはありえないと思うが、気をつけなければならないのは、キタマクラを触った手。たとえばハリにかかったキタマクラを外したり、逃がすときに触った手を洗わずにそのままオニギリを食べたりすると、間違いなく毒は口に入ることだ。こうやって毒が入って中毒したと言う話も聞いたことがないが、キタマクラの皮膚には強い毒があることは間違いないことなので、この点だけは注意した方がいいだろう。
さて、ボクたち(釣り人)が最も興味のある話は、やはり彼らの海中での行動だろう。 まずキタマクラは、岩礁域・砂地海底域の海底付近にふだんは棲息する。ほとんどの状況で単独行動である。それぞれがバラバラに点在するように生活しているのだが、エサが撒かれたりするといち早く反応し、捕食し始める。お互いに呼び合うのかはわからないが、あたり一面がキタマクラになってしまうことすらある。 とはいっても、いつもこのような状況になるわけではない。こんな状況になるのは、水温が急に下がったときとか、潮が止まって全体的に活性が低くなったときに多い。そんなときこそが、彼らの活動する時間帯である。カワハギと同じようにホバリング(ヘリコプターが上昇も下降もしないで、ある空間でとどまること)が得意である。胸ビレや背ビレを器用に使ってホバリング。この泳法で、ハリスがどんな状態であっても、その先にある付けエサを上手に食べる。この際に、アタリそのものがウキやサオ先にはほとんど伝わらず、エサだけをかすめとられてしまうのである。 |
そんな巧みな行動でエサを盗る「キタマクラ」。彼らを避けて釣ることはできるのだろうか(?)。
避けるためのテクニック的なものは、たとえば磯釣りなら、コマセを打つ位置を変えることで多少の防御はできる要素はあるものの、決定的な方法ではない。基本的に避けることは不可能だと思った方がいいだろう。船釣りのコマセダイなどで10mの長いハリスを使ったりするのも、コマセをご本体から距離をかせぐという同じ意味合いだが、この方法も万全な対策であるとはいえない。
だが、本命のサカナ、たとえばメジナ、クロダイ、マダイなど、活性が高くなってさえくれば、満天の星のようにいたあれだけのキタマクラがほとんど姿を消す。本命魚の捕食は荒々しく、エサ盗りたちはそれを嫌がって逃げてしまう。つまり本命のサカナたちの活性が上がる「時合い」を待つしかないのである。
また、ガクンと急に水温が下がったりすると、さすがにキタマクラも活動が鈍って、岩の上の小さなくぼみなどで休んでいたりする。まぁ、こんなときは本命のサカナたちも活性が鈍っているので、サカナの目の前までエサを運んでやることができれば、キタマクラの影響を受けずに釣ることができるかもしれない。
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