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1.姿はややグロテスクだが、きわめて美味なターゲット!

ホウボウは胸ビレが大きく、その根元が棘のようにも見え、また頭部の棘状の突起から、触ると刺されるとか、毒があるとか勘違いされやすいサカナです。実際には刺すこともありませんし、ましてやカラダのどこにも毒は存在しません。

この時期、アマダイ釣りやカワハギ釣りの外道として釣れてくることが多いのですが、あるエリアではこのサカナを専門に狙う場合もあります。水深15mほどの浅場にいるかと思えば、アマダイを狙う水深100m辺りにまで平気でいたりすることもあります。また図鑑などでは水深600mという深海で捕獲されたという情報もあり、棲息水深はかなり幅を持っているようです。

一見すると、頭部がアンバランス的に大きく、腹部が異常なほど真っ白で、背側は灰褐色の地に鮮やかな赤朱色の班があるような体色で、ややグロテスクに見えなくもないサカナです。身は白身で甘みがあり、お刺身やお寿司で美味しくいただけます。また、この時期なら鍋が最適で、濃厚とも言えるダシがでて、とても美味しくいただけるサカナです。

胸ビレの持つ特殊な能力(その1)

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ホウボウは、外敵に襲われそうになると、胸ビレを大きく広げる。自分を大きく見せようとする意味もありますが、鮮やかな色を見せるフラッシングという行動で、相手を驚かせています。

まず、ホウボウの場合、胸ビレにとても大きな特徴があります。ヒレも大きく、しかも広げると鮮やかな青緑色。青い縁取りがあり、そこに水色や青色の斑点が点在します。また、胸ビレの付け根3本が、木の枝というか、根っこというか、ヒレのない棘のような部分になっていることでしょう。

そもそもサカナにとって、胸ビレは、エサに近づく時に微速前進したり、なにかに警戒しているときにゆっくりと後退したり、泳ぎながら向きを変えたりするためのヒレ。中にはトビウオのように海面からの飛翔に使われる特別なケースなどもあります。

そんな中でも、ホウボウの胸ビレはトビウオ以上に特殊なケース。派手な模様は、外敵に襲われた時に広げて見せるためのものです。目の前で、いきなり鮮やかな色が広がり、相手を驚かせるためのもの。ボクたちも、いきなり目の前でバッと鮮やかな色した扇子を広げられたら誰でもビックリしますよね。このホウボウの行動は、専門用語でフラッシングといいます。一瞬、まるで閃光が走ったかのようなことが起こるため、カメラのフラッシュと同じ意味合いで、フラッシングといいます。意外と蛾や蝶、その他の昆虫にこのワザを使うものがいます。特に昆虫が鳥に襲われた時にこのワザを使い、鳥が一瞬ひるんだスキに逃げるといった使われ方をしています。

ただ、はたしてサカナにこの鮮やかな色がわかるのか? という疑問は残ります。でも、産卵期のオスの見せる鮮やかな婚姻色もしかり、このフラッシングもしかり、無駄に鮮やかな色を呈するとは思えないので、少なくともボクは、なんらかの形でサカナにも色がわかるのだと思っています。

胸ビレの持つ特殊な能力(その2)

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ホウボウの特徴は、胸ビレの付け根3本が、棘のようになっていて、しかも脚として海底を歩くことができること。さらに、その先端部がセンサーの機能も兼ねていて、エサを探せることです。

ホウボウのもうひとつの特別な能力は、胸ビレの付け根にある棘のようなヒレの部分。

まず、ホウボウの生態として、海底をはいまわりながらエサを探します。その場合、尾ビレを使うと、速く泳ぐことはできても、思うようにゆっくりと、しかも海底ギリギリのラインをはいまわることができません。そんなときに有効なのが、胸ビレの棘の部分。ここは、3本の脚のようであり、構造的に器用に曲がるような作りになっていて、昆虫の脚のような動き方ができます。つまりこの器官を使って、海底を歩くことができるのです。数多くの種類のいるサカナの仲間でも、器用に胸ビレを使って海底をはいまわることのできるのは、ホウボウやカナガシラなどのホウボウの仲間だけでしょう。

さらにすごいのは、その脚となる胸ビレの先端には、感覚器官が埋め込まれています。それを砂の中に差し込みながらはいまわることで、その先端部でエサを探したり、味を確認したりすることができるようです。

砂の中には、イソメやゴカイ類、小さなエビカニの仲間などが潜んでいます。さすがに手のような動きでエサをつかまえたりするまでの能力は、そのヒレにはないようなのですが…。エサを見つけたら、すかさず口先を砂の中に左右に振りながら突っ込み、エサを捕食します。

ゆっくりと海底をはいまわりながら、同時にヒレ先でエサを探したり、味を確認できてしまうのですから、たいしたサカナです。

その生態から判断すると、こんな釣り方?

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もうひとつ、ホウボウのあまり知られていない行動として、夜になると砂にカラダを半分以上埋めて眠ります。かなり熟睡するようで、寝ている時は触っても、まったく逃げる気配はしばらくありませんでした。

前述のように、ホウボウはゆっくりと海底をはいまわり、胸ビレも使ってエサを探知します。ということは、エサは海底に落ちているか、海底ギリギリのラインを漂うような仕掛けの扱い方をすればいいということになります。

以前、船のアマダイ釣りの際に、その日はアマダイの調子が思わしくなく、ときおりホウボウがかかってくるような日がありました。その日、ボクは途中から作戦変更し、ホウボウ中心に狙う作戦をとりました。ふつう、アマダイの仕掛けは2本バリの吹流しタイプですが、仕掛けを全長2.5mの4本バリの吹流しをその場で作り、途中に小さなサルカンを入れて、それがオモリとなって海底にはうような仕掛けにしてみたのです。そして底潮が流れているようでしたので、オモリをわずかに海底から離すようにして、仕掛けの後端が海底をはうか、潮で海底ギリギリをたなびくぐらいのイメージで狙ってみたのです。言ってみると、漁業で言う「底はえ縄漁」のような釣り方です。

その作戦はその日見事に当たり、良型ホウボウがハリ4本全部にかかって、サオは満月。リールのドラグが逆転するほどの強いヒキで、あげるのに苦労するような場面もあったほどです。良型ホウボウの「ツヌケ」。その日アマダイは1尾のみでしたが、ホウボウでクーラー満タンという、ある意味満足な釣果。臨機応変に試してみてください。

※釣魚水中生態学入門より移設