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2.伊賀、甲賀もまっ青。忍術の使い手

先日、南紀串本に行く際に、クルマで伊賀、甲賀という忍者の里を通った。山深いその場所は、今でも忍者が潜んでいそうな場所だったし、忍術を研鑽するにはうってつけの場所のようにも思えた。そのとき、なぜかふと頭に浮かんだのがサカナ界の忍術使い・ヒラメのことだった。

1)海底の色に酷似させる眼力

ヒラメは、砂地、砂泥地、砂地と岩礁とが混じる岩礁地帯にいる。海底にはりついてエサとなる小魚が目の前を通るのを待つ。しかも、ただ待つだけではなく、自分のカラダを海底の色や模様に酷似させる。まさにカムフラージュの天才といったところだろう。

見事なまでのカムフラージュ。何の警戒もせずに近寄ってきた小魚に対し、射程距離内に入ったとたん跳びかかる。忍者というよりも、軍隊の特殊部隊・グリーンベレーさえ脱帽のゲリラ作戦である。

どこの学者が言ったことか知らないが、サカナには色がわからないというのはまったく根拠のない話のように思える。なぜなら、ヒラメは、白い砂地に点々と黒い砂粒が混じるような場所であれば、白い砂地の色に自分の体色を似せることはもちろんのこと、黒い点々が混じるところまで似せられる。濃いベージュ色した砂泥地の海底では、まったくその色と同じ色に体色を変えてしまう。緑色の芝のような毛足の短い海藻が付着した岩の上なら、ほとんど見分けつかないほどその色に似せることができる。そんな芸当ができるヒラメに色が判断できないわけがない(?)。

それよりも、ひょっとすると実はサカナの方が人間の数倍も色を細かく分析できる能力の持ち主なのかも(?)しれない。

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ヒラメは巧みに自分のカラダの色を周囲の色に変える。まさにグリーンベレー脱帽の変装でゲリラ的に捕食の体勢に入る。
眼だけ出して、周囲の状況を確実に判断する。恐らく、眼の力は人間よりも優れているのではないかと思わされる。

2)意外なほど敏捷である

ヒラメは海底でじっとしているから、行動そのものが鈍いという印象を受けがち。しかし、エサを捕食する際の敏捷さは驚嘆に値する。まるでバネ仕掛けの道具のように海底からはじけるように飛び出し、エサに鋭い歯を立てる。大きなダメージをくらった小魚は、暴れて逃れようとするが、暴れれば暴れるほどヒラメの歯は深く入り込む。そのうち動きの鈍った小魚は、ヒラメに飲み込まれていく。

まぁここに「ヒラメ40」の秘密が隠されている。もう少し分かりやすく言えば、「ヒラメ釣りの場合、アタリがあっても直ぐアワセるのではなく、40ぐらい数えてからアワセた方が良いという、格言的なもの(但し、ルアーの場合はサカナでないことがバレる前にくわえた瞬間にアワセないとフッキングしない・・・)」というもので、実にヒラメの捕食行動を上手く説明している言葉なのだ。

さて、ヒラメの敏捷さを証明する話がある。ボクの友人A君が、いわゆるソゲ(30cmぐらいのヒラメ)を水槽で飼っていた。その部屋でボクとB君と合わせて3人でビールを飲んでいたときのこと。

B君はほろ酔い気分だったのか、そのソゲの水槽をのぞきこんでいた。そのとき何を思ったのか、水槽に指先を入れてクネクネと何度もまげて見せた。その直後、B君の悲鳴が雷鳴のように轟き、それと同時にフローリングの床でビトンビトンとはねるソゲとが目に入った。B君はしゃがみこんで右手をつかんでうめいていた。出血がひどく、B君は救急車に乗せられて病院送り。何と3針縫った。

後日詳しい話を聞くと・・・、

B君がソゲにいたずらしようと水面で指先を動かした。ジャッと水槽の底のサンゴ砂(海水をろ過させるために底にサンゴの砂利のようなものを入れる)の音がした瞬間にソゲが指先に食いついたのだそうだ。もう、避けるも暇もなく瞬間的な出来事で、跳ねたと思ったら食いつかれていた、というほどのすばやさだったそうだ。

実は、A君もこのソゲを捕まえてきて水槽で飼っていたのだが、水槽に慣れるまではエサをやらないという飼育の鉄則を守っていた。が、そろそろ水槽にも慣れたのでエサをやろう(!)、としていた矢先の出来事だったという。恐らく、そのソゲも空腹の極みだったのだろう。B君には申し訳ないが、何とも可笑しく悲劇的な話しなのだが、ヒラメの俊敏さとその捕食の瞬間がよく分かる一件だった。

3)跳びあがる秘密はカラダの使い方

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ヒラメは尾びれを上下に振ってドルフィンキックで泳ぐ。面白いのは胸びれを背びれのように立てて、背びれの役をさせて泳ぐことだ。

ヒラメは海底にはりついている。片側に集まった二つの眼が細かに動いて周りの状況を把握する。

エサの小魚が近づいてくるのを視認すると、背骨を中心に背びれ側と腹びれ側を内側に反せる。ちょうどカラダの中心が海底から離れ、背びれ側と腹びれ側のふちでカラダを持ち上げている感じだ。

さらに、エサが近づくと尾びれ側も内側に反せる。ちょうどネコがなにかに飛びつく瞬間のようにカラダのバネを最大限に利かそうとする体勢となるのだ。

バシュッというような音とともに尾びれで海底をたたき、獲物に瞬間的に跳びかかる。

海中で捕食シーンを目撃したときは、小魚がヒラメから射程1m以内に入ったときに跳びかかっていた。正確には跳びかかった瞬間は60cmぐらいの間隔だったように思う。

恐らく、現実的にはそんなに効率よく捕食のタイミングがあるはずはないので、省エネのためにあまり移動しないというのも理にかなった行動だろう。

4)「ヒラメ40」の秘密

エサに食いつく瞬間の俊敏さは、まさに光速のようなすばやさがあるのだが、それからの時間(完全にエサを捕食するまで)がかなりある。跳びかかって、見事に小魚を口にくわえると、スーッと滑空するように着底。小さいエサならそのまま飲み込んでしまうのだろうが、少し大きなエサとなると、口でくわえたままじっとしている。

口先では小魚が暴れている。が、前述のように小魚は暴れれば暴れるほど歯が食い込む。ヒラメも時折、いい位置にくわえ直そうとする。

だんだん小魚の暴れ方が鈍ってくる。それから、どうも飲み込み始めるようなのである。

まだ数多くの事例を(海中で)目撃できたワケではないので断言できるまでには到らないが、海の中で2回目撃した例を考えてみても、どうも飲み込むときは頭から飲み込むようにくわえ直して飲むというのは間違っていない(!?)ような感じだ。

※釣魚考撮より移設