ブダイ。漢字では「舞鯛」、「武鯛」、「不鯛」、「部鯛」などという文字があてられています。姿が武士のいくさで着る鎧のようにウロコが大きいから「武鯛」。泳ぎ方がヒラヒラと舞うようだから「舞鯛」。不細工な姿をした鯛ということで「不鯛」などと、名の由来にはいろいろな説があります。地方名もイガミ(関西)、カシカメ(伊豆大島)、モハミ(九州)、カシカミ(伊豆七島・神津島)、ちなみに英名はパロットフィッシュ(オウムのくちばしに口の辺りが似ていることから)などと呼ばれています。
ブダイは、サカナとしての扱いは両極端です。メジナやイシダイ釣りなどの外道として扱われてしまうこともあれば、東京都式根島などのように、結婚式にはなくてはならないサカナとして珍重に扱われる場合もあります。煮付けにして食べてもとてもおいしく、また、醤油とみりんに鷹の爪を加えたヅケ汁に切り身をつけこんだヅケ寿司は絶品です。
以前は、外道として釣れた場合はかなりぞんざいな扱いをされたケースもあったようですが、最近は釣れると丁寧に持ち帰って食べるという傾向が強くなってきています。また、意外とヒキの強いサカナでもあり、かかって釣り上げると喜ばれることも多くなりつつあるようです。
ブダイの好物は、エビカニ類と海藻。だからカニで釣るときはカニブダイ、ハンバノリなどの海藻で釣るときはハンバブダイと呼ばれたりもします。 このあたりは、どうも季節的に食性が変化するようで、水温の高い時期はエビカニ類が主食。水温の低い時期は海藻類を食べるというのが本来のパターン。でもこれは生物的にはとても興味深いことで、食べたものを消化する消化酵素が繊維質のものの場合と、動物食のタンパク質のものの場合とはまるっきり異なります。わたしたち人間の場合は、まさに雑食なので、この辺の使い分けは全くないのですが、野生動物の場合は大きな問題です。とりわけサカナの場合は、消化酵素で消化するので、実に面白い現象なのです。これは、どうも水温が切り替わるきっかけとして考えられるらしく、水温18度ぐらいがそのきっかけの線となると専門家たちの間ではみています。 この傾向はメジナにも同じことが言えて、メジナやブダイなどの磯のサカナは、水温変化で自分たちの内臓での消化酵素を使い分けていると言えるでしょう。 たださらに不思議なのは、水温が下がる冬の時期でも、磯釣りのエサとして使われているオキアミを喰ってくることです。前述の消化酵素の理屈では、冬は繊維質の消化酵素となっていれば、食べたオキアミは消化されないことになります。ところが、実際には消化されているようなので、この辺の話はある意味謎の部分です。 エサの喰い方は、エビやカニの場合は、持ち前の丈夫な歯を使って、バリバリと食べますが、海藻の場合は、はみとるようにして食べるため、意外とアタリのとりにくいサカナと言えます。ブダイを専門に狙う仕掛けに、ブダイウキという長いウキを使うのも、微細なアタリをとるためと言えます。 |
サカナも生き物である以上、必ず睡眠をとります。カツオやマグロなどは、泳ぎながら睡眠をとるようです。ところが、ブダイの仲間は海底で寝ます。中でも有名なのは、アオブダイ。自分で粘膜状の寝袋を作って、その中に入って寝ます。 一般的なブダイは、寝袋までは作りませんが、海底の岩と岩の間に入って寝ます。寝ているときはかなり熟睡していて、触ってもライトを当てても起きないほどです。 以前、湘南の逗子沖の海に夜間潜ったときに、寝ているブダイを見つけたことがありました。そのときは、写真を撮るために水中で何度もストロボをたきましたが、まるで死んでいるかのようにピクリともしませんでした。最後に触ってみたら、ようやく動いて向きを変えたほどです。人間でもなかなかここまで熟睡するのは難しいのに、まさに弱肉強食の海という野生の世界で、よくそこまで無防備にできるのか驚かされました。ウロコが大きくて硬く、鎧をまとったようというカラダのつくりがなせる技かもしれませんね。 |
去年の秋に伊豆半島先端の石廊崎を潜ったときのことです。ブダイは、もともと産卵期以外は群れらしい群れは作らないサカナです。比較的単独で行動したり、2〜3尾程度のごく小さな群れと呼べないような規模のもので行動しています。ところが、このとき見たのは、20〜30cmを中心としたブダイが100尾ぐらい群れていました。その群れ以外にもブダイは多くいて、なんでこんなに多いのだろうと思っていました。すると、やはりブダイがよく釣れた話、また漁師さんの刺し網という網にブダイがよくかかって死んでいるという情報も得ました。 理由はなんであるかは不明なのですが、一時的な現象かもしれませんが、ブダイの数が増えているようです。最近は、アイゴ、ブダイ、ニザダイ、メジナといった磯魚が海藻を食い荒らし、いわゆる食害と呼べる磯枯れ現象を引き起こしているとまで言われるようになっています。ブダイを釣ったら、逃がさずに大事に持って帰り、おいしくいただく。これこそ釣り人の義務と言えるかもしれません。 |